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第46話母親

「おまえの母親? いまさらそんなことを知ってどうするつもりだ? まさか会いたいとかいうんじゃないだろうな?」

「なんですって? ということは、わたしの母親は生きているの?」


 驚いた。意地悪な侍女たちから「あの人は死んだ」とか、「あの人はこの世にいない」とか聞いていたからだ。


 幼心に、「あの人」という表現が奇妙だと思っていた。ふつうは「母親は」と表現するはずだから。


 その自称わたしの母親は、この世界のどこかで生きているらしい。


「ちょっと、なんとか言いなさいよ」


 カイルは、薄っすらと傷のある唇をかたく閉じている。翡翠色の瞳には、なんとも表現のしようのないなにかがたゆたっている。


「知らん」

「は?」

「知らんと言ったんだ。おまえの母親のことなど知るものか。おれ自身の母親のことさえ知らんのだからな」

「なんなのよ、それ」


 カイルの母親は、王宮付きの侍女長だったらしい。でっ、国王が手を出したらしい。しかも、伯爵か侯爵の妻だった。国王は、強硬手段に出た。つまり、命によって別れさせ、みずからの側妃に迎えたのだ。


 カイルは、自分の出自を知ってから人がかわった。そして、王子としてではなく闇の世界で生きることを選んだのだ。


「ただの言い間違いだ。それよりも、おまえにアイロンをかけさせてやろうか? まだズボンが残っている。ほら、入れよ」


 カイルに手首をつかまれ、家事部屋にひっぱりこまれそうになった。


「ちょっと、やめてったら。アイロンをかけるのは得意なんでしょう? 自分でやりなさいよ」


 手首を振り払おうにもむんずとつかまれているので振り払えない。


「姉さん、トラブルかい?」


 リオンの声が聞えた途端、というか、リオンとルーの気配を感じた途端、カイルはわたしの手首を開放した。


 なんと、家事部屋の窓からふたりが入って来たのだ。


(というか、エントランスや裏口にちゃんと扉があるのに、どうしていつも窓から出入りするわけ? もしかして、向こうの世界には扉というものがないわけ?)


 この点だけはどうもいただけない。


「姉さんにアイロンをかけさせたら、真っ黒こげになるよ」

「そうだよ。アイロンの跡がつくだけならまだ笑えるけれどね。残念ながら、ねえさんのはそんなお茶目なものじゃない。どこもかしこも焦がされたら、せっかくのタキシードが着用出来なくなる」


 ルーとリオンは、カイルにとくとくと説明した。


(こんなに可愛い弟たちを持って、わたしはほんとうにしあわせ者ね。って、そんなわけないじゃない)


 ふたりは、わたしの睨みなど気にするでもない。


「暗殺者集団が王都にやって来たよ。ああ。そこにいる彼の部下たちじゃない。また別口だ」


 リオンの突然の報告に、カイルと目を合わせてしまった。

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