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第45話家事部屋にて

 結局、クララの誕生日パーティーに出席しなければならなくなった。


 こうなったらやけくそである。


 とはいえ、マフィアのボスのサディアス・ラザフォードとその片腕のジャック・マクレガンも招待していて、彼らは招待に応じるらしい。


 これまで一度も招待を許可しなかったクララの父親がそれを許可したのには、おとなな事情があるらしい。はやい話が、金貨なのだ。第二王子に王位を継がせるには、わたしなどでは想像もつかないほど金貨が必要になる。いかにホプキンソン大公家といえど、単独で出資するには限界がある。というわけで、サディアスとジャックを招待することを許可したのだ。まぁ、ジャックの実家であるマクレガン公爵家とのつながりをより強固にするのにもちょうどいいらしい。


 わたしはというと、今回はアメリアのドレスを借りることにした。


 クララが自分のを、と言ってくれたけれど、ホプキンソン大公家で着用するとなるとまたクララに迷惑をかけてしまう。主役の彼女が、わたしにコルセットを着用させるのに汗まみれになるわけにはいかない。それにアメリアが全力で面倒をみると言ってくれたし、お言葉に甘えることにしたのだ。



 クララの誕生日パーティーの前夜のこと、家事部屋の前を通りかかった。


 クララのお母様の実家の屋敷は、古いながらもちゃんとしている。家事部屋や作業部屋があって、そこで家事や作業ができるようになっているのだ。


 その家事部屋の中から明かりがもれている。扉がすこし開いている。


(カイルがアイロンを?)


 なんと、家事部屋の中でカイルがせっせとアイロンがけをしている。


 クララの誕生日パーティーに着用するタキシードのシワを伸ばしているのだろう。


 そのあまりにも家庭的、というかフツーの青年みたいな様子を目の当たりにし、驚きを通り越して唖然としてしまった。


 見てはいけないものを見てしまったかのようだ。


 だから、見なかったことにした。つまり、扉からそっと離れようとしたのである。


「おいっ、盗み見はレディのすることじゃないぞ」


 が、扉が全開した。


 わたしに背を向けてアイロンがけしていたはずのカイルが、目の前に立っているのだ。


「な、なによ。失礼ね。盗み見なんてしていないわ。それに、レディなんてとっくの昔に捨てているし」


 盗み見するつもりなんてなかったけれど、いまのは完全に盗み見だ。そして、「レディなんてとっくの昔に捨てている」というのは、「いまさら? わかってるよ」的な告白だっただろう。


「そうだったな。おまえにはレディという言葉そのものが不適切だったな」

「失礼ね」


 自覚しているのと他人に認定されるのでは、やはり違ってくる。


 ムッとしてしまった。


「自分でやるのね」


 視線を彼のうしろのアイロン台に向け、話をかえた。


「こう見えても、アイロンをかけるのはうまいんだぜ。だれかを殺るのと同じでな」


 アイロンをかけるのと人を殺すのが同じなわけはない。


 そうツッコみたかったけれど、口の端をほんのすこし上げるだけに止めた。


「なにせキングスリー国の王子だからな。それ相応の恰好が必要だろう? 追放された元王女様とは違ってな」

「そうでしょうとも」


 面倒くさいから、同意しておいた。


 そのとき、ふと頭の中に疑問が浮かんだ。


「ねぇ、わたしの母親ってどんな人か知ってる? わたしたち、一応腹違いの兄妹ってことよね?」


 現在は、もともとここで生まれたわけではないことを知っている。赤子のときに違う世界からやって来たのに、なぜか王女としてこの世界に生を受けたことになっている。当然母親は、というか母親を名乗るどこかのレディは、キングスリー国の国王に「自分が産んだあなたとの子」と主張したはず。ということは、そのレディは王宮にいて、なおかつその記憶を植え付けるだけの影響力のあるレディが言い張ったのだろう。というか、そのレディには主張がまかり通ったほどの影響力があったのだろう。たとえ国王にその記憶がなくても、だ。


 わたしにはそんな母親の記憶はいっさいない。物心ついたときには、宮殿の侍女たちにさえ蔑まれ、嫌われていた。いつもひとりぼっちだったし、だれかにかまってもらったこともなかった。奴隷どころか家畜よりひどい扱いを受けていた。


 それでも生きのびられたのは、王女だったからだ。すくなくとも、王女という立場がかろうじてこの世界で生をつなぐことができたのだ。


 もっとも、それも四、五歳くらいまでのこと。そのあと、より過酷な世界に放り込まれ、現在にいたっている。


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