表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/67

第40話なんか気まずい

「ブランドン様」


 朝食前、ブランドンが二階から降りてきたタイミングで彼の前に立った。


「リオ、おはよう」

「おはようございます」


 気まづい。気まづすぎる。


 もちろん、例の押し倒し事件よりかはまだマシだ。だが、カイルといっしょにいたところを、といかわたしの部屋でふたりきりだったところを見られたことも、気まづすぎる。


 なぜかはわからないけれど。どうしてブランドンにたいしてうしろめたい思いをしているのか、自分でもわからないけれど。


 あのあと、ブランドンはわたしに何度も「大丈夫なのか?」とか「何かあったんじゃないのか?」とか、しつこく尋ねてきた。


 正直なところ、大丈夫ではないし何もなかったわけでもない。が、こういう場合は「大丈夫です」とか「ほんとうに旧交を温めていただけなんです」とか、答えるしかない。


 ある意味では、嘘ではない。実際、身体的には大丈夫だし、旧交を温めていたのだから。それが脅され、いじられ、不安をあおられまくって精神的にダメージを食らっただけのこと。


 そこを省略しただけ。


『おれに相談しにくかったら、クララに相談して欲しい。たとえば、あいつ、いや、きみがカイルとの同居がちょっと、ということだったら、解消した方がいいと思うんだ。そもそも、母上とおれときみたちがここにいるのは、なにも彼と同居するためではないんだし。彼がここにい続けるのなら、おれたちがよそに移ってもいい。もしもきみが言いにくかったら、母上からクララに話してもらおう。その母上には、おおれから話をするよ』


 ブランドンは、そこまで言ってくれた。


『ブランドン様、ほんとうにありがとうございます。たしかに、もとのご主人様ということで、気を遣うところはあります。しかし、いまはご主人様ではありません。わたし自身がしっかりすべきなのです。ほんとうにダメになったら、ブランドン様に相談します。ブランドン様、そのときには力を貸してください』

『わかったよ。ぜったいにムリはしないで。いいね?』

『はい』


 驚くほど機嫌がよくなったブランドンは、ヤバいほど上機嫌で部屋から出て行った。


 鼻歌を歌いつつ。スキップし始めるんじゃないかというほど軽やかな様子で。


 そのあと、リオンとルーが入って来た。


 窓から、だけど。


『ブランドン様は、カイルが姉さんの部屋に入って行くのを見たんだろうね。そのあと、ブランドン様は自分の部屋でずっとやきもきしていたよ。そして、ガマンができずに姉さんの部屋へ突撃したわけだ』

『兄さん。そのときのブランドン様って、すっごく面白かったよね?』

『ちょっと待って。あなたたち、そうやってずっと窓の外から中をのぞいているの? というか、それだったらカイルに脅されているときにどうして助けてくれなかったのよ?』


 たしかに、「リオンとルーが窓の外から見張っている」とカイルに言った。彼を脅したかったからだ。だけど、ほんとうにふたりは見張っていたのだ。あのとき、カイルが暴挙にでたとしたら、ふたりは助けてくれただろう。


『だって、面白すぎたから』

『展開が気になったからだよね』


 ふたりは、そう言って笑った。


 とにかく、ブランドンは心配してくれていた。


 だから、朝一番にお礼とお詫びをしたかったのだ。


「リオ。くどいようだけど、ほんとうに大丈夫なんだね? 先夜も言った通り、ダメならクララに相談して欲しい。もちろん、おれもだ。まっ、どちらかといえば、おれに一番に相談して欲しいけどね」


 ブランドンの笑顔がキラキラしすぎて眩しいくらい。


 寝不足の上、朝陽の輝きがチカチカしているのに違いない。


「ブランドン様、ほんとうにありがとうございます。いまはまだ大丈夫です。なにかあったら、かならずやブランドン様に相談します」

「わかったよ。ムリはしないようにね」


 彼は、背を向けて歩き始めた。


「ブランドン様」


 その背に呼びかけずにはいられない。


「なんだい?」


 体ごと振り向いた彼は、さらにキラキラ輝いて見える。


「あの、ほんとうにすみません。わたしがあなたを守るはずが、あなたに心配をかけてしまって」


 本心だ。


「黄昏の黒狐」の異名が聞いて呆れる。


 というか、カイルと再会してからというもの、すっかり調子が狂ってしまった。


 訂正。リオンとルーに出会ってから、すっかり腑抜けになってしまった。


「そんなことないさ。それとこれとは別だろう? きみは、あくまでも暗殺者たちから守ってくれているんだ。もとの主人となると、そうじゃない。だから、そういうことは違うんだ。ごめん。何を言っているのかわからないよね?」

「いいえ。わかります。なんとなくですけど」

「よかった。それだったら、ほんとうに気にしないで」


 彼は、キラキラ輝く笑みを残して去って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ