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第36話そんな奴、大丈夫なのか?

「なるほど。そいつが夫人たちといっしょに暮らすってわけだな?」


 サディアスがカイルが座っていた席につくと、クララがわたしたちの同居人が増えたということを報告した。


「でっ、こんなにここが血なまぐさいってわけだ」


 サディアスは、両手で店内を示した。


 カイルはいないけれど、彼の部下たちの何人かはそのまま残って客のふりをしている。


「どういう意味?」

「クララ。そいつは、ほんとうに大丈夫なのか?」

「だから、どういう意味なのよ?」

「ここらへんで客のふりをしている連中。それから、店の外にも見張ってる連中。どいつもこいつも血なぐさいったらないぞ。プンプンにおいすぎていて、さすがのおれでも気分が悪い。そんなヤバい連中の親玉、ほんとうに信用できるのか?」


 さすがはサディアス。そういうにおいには敏感なわけだ。


 それにしても、彼はつい最近までそういう世界とは縁がなくて、父親の跡を継ぐためにそういう世界に入ったと言っていたが、それにしてはボス感満載だし、すべてにおいて洗練されている。


 こういう世界が性にあっていて、才能があるのだろう。


「サディアス、失礼なことを言わないで。彼は、モート国の王子よ。慈善活動家でもあるのよ。あなたよりずっとずっと紳士だわ。すくなくとも、悪党のあなたよりずっとずっとまともよ」

「はんっ! 言ってくれるね。だがな、クララ。きみのその人の見る目のなさが、夫人とブランドンとついでにリオを危険にさらすことになるかもしれないんだぞ」


 サディアスは、わたしを「ついで」扱いしすぎている。


 だけどまぁ、たしかに彼のいう通りだ。というか、そのものズバリだ。


(っていうか、カイルの部下たちを挑発しているの? あるいは、警告なの?)


 サディアスは、わざと聞かせているのだ。


 彼らにたいして挑発しているのかもしれないし、警告なのかもしれない。


「サディ、いいかげんにして。本人に会ってもいないのに、どうしてそんな危険人物扱いできるわけ? ここにいる人たちだって、ただのお客様よ。ただお茶を愉しんでいるだけよ。それに、カイルのことはリオだって保証してくれているわ。彼女のもとのご主人様なんだから。これって、すごく偶然だと思わない?」

「リオのもとのご主人様? ほんとうなのか、リオ?」


 サディアスは、席を立つとこちらのテーブルにやって来た。


「え、ええ、まぁ、そうかしら?」


 昔、組織で活動しまくっていたときは、嘘をついたりごまかしたりすることに罪悪感などまったくなかった。それどころか、いかに巧妙に、あるいは華麗に他者をだましたりごまかしたりすることを得意としていた。


 しかし、いまは違う。


 そのどちらも得意ではなくなっている。


 ついていい嘘やごまかしならともかく、こういうことはできるだけやりたくない。もちろん、依頼人の為にはどちらもやるけれど、それでもできるだけやりたくない。


 そのため、嘘やごまかしが苦手になってしまった。


 いまもそう。サディアスのルビー色の瞳をまともに見ることができない。ついでに口ごもってしまう。


「待たせたね」


 そのとき、カイルが店に入って来た。


「あいつがカイル?」


 サディアスに尋ねられ、かすかに頷いた。


「だったら、きみの嘘より、おれ自身の目で確かめてやる」

「やめて、サディアス」


 サディアスは、宣言するなりわたしを押しのけてカイルに近づこうとした。


 反射的に、その彼の肘をつかんでいた。


 彼が名うての悪党でも、カイルはそのさらに上の上をいっている人殺し。ある意味狂人だ。カイルの頭や心のスイッチが入ろうものなら、もうだれにも止められない。血にまみれ、肉片が散るまで殺戮しまくる。


 そんなヤバい奴に、サディアスが勝てるわけはない。


「ほんとうに大丈夫だから。わたしが、いえ、わたしたちがどうにかする。だから、いまは何もしないで」


 サディアスの耳に囁きながら、視線をリオンとルーへと向けた。


 サディアスもまた、カイル同様リオンとルーの強さを見ている。


「そんなにヤバいのか? わかった。きみはともかく、きみの弟たちにこの場は託すしかないな。まっ、きみの顔を立てるってわけだ」


 サディアスは、強がった。それから、わたしに恩を着せた。


 それでもいい。


 カイルに目をつけられないため、サディアスの命を守るためなら、何を言われてもガマンしよう。



 奇妙すぎる同居生活が始まった。


 狙われるものと狙う者が、同じ屋根の下で生活するのだ。


 カイルは、クララの説明通り日中は慈善活動やさまざまなところをまわっているようだ。その間、彼の部下のうち数名は彼について行き、数名は屋敷に残って修繕作業をやっている。


『泊めてもらっているお礼にせめて屋敷の修繕作業をやらせてほしい』


 カイルは、自分ではやらないくせにそう申し出た。ただのカッコつけしいなだけだ。


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