第33話クララの慈善活動家仲間
クララの慈善活動仲間らしいカイルとは、街のカフェで会うことになった。
アメリアとブランドン、それからカイル。三人とも、一応王族。ご貴族様御用達のサロンや店に行けば、だれかに発見されるかもしれない。
その点、平民しか来ない街中のカフェであれば、さほどまわりの目を気にしないですむ。
アメリアとブランドンは、いつもシャツにスカートやズボンを着用している。この日もそんなカジュアルな恰好である。
馬車は断った。
そのカフェならわたしも知っているし、馬車で行くような格式高いカフェではない。送り迎えをする馭者の身の安全のことも考えれば、徒歩で行った方がいい。
アメリアとブランドンは嫌がることなく快諾してくれたし、散歩がてらカフェへと向かった。
クララとカイルは、いや、クララの慈善活動仲間は、すでにやって来て着席していた。
アメリアとブランドンが先に立ち、リオンとルーとわたしがあとに続く。
店内には他に何組かいる。
そのほとんどが、カイルの部下たち、わたしにとっては昔の仲間たちだ。
それをいうなら、カフェの外にも何名か待機している。
カイルたちの狙いは、アメリアとブランドン。護衛丸出しのわたしのことも捕捉している。バレているかもしれないし、バレるのは時間の問題かもしれない。
それでもムダな抵抗をせずにはいられない。
すなわち、ウイッグを着用して髪の色をごまかしたのだ。
とにかく、わたしたちはアメリアたちの近くのテーブルを選び、わたしはカイルに背を向けて着席した。
ムダにビクビクはしない。心の中ではビクビクものだけど。むしろ態度はデカく、できるだけ平静を装った。
クララたちはお茶を頼んだようだ。まぁ、当たり前といえば当たり前だけど。
だから、わたしたちもお茶にした。
ただし、ミルクたっぷりのミルクティーだけど。
クララたちのお茶が運ばれてきた。
(毒見したいわ)
そんな衝動に駆られまくっている。
奥で毒を入れて提供するなんてこと、あるあるなのだ。
もちろん、ふつうの店は大丈夫。わたしたちの世界においては、だ。
それを考えれば、カフェの店員たちは無事なのかと不安になる。
いまお茶を運んでいる娘も、カイルの部下かもしれない。
なにせ例の組織は、入れ替わりが激しい。円満退職などではない。半分は労働災害でもう半分は処断や粛清。つまり、死んでいなくなることがほとんど。
わたしの場合、抜けることができたのは奇蹟に近い。
って、わたしのことはともかく、なにもかもが疑わしく思えてくる。実際、店内にいる客のほとんどは組織の者だし、店の周囲にも連中のにおいがプンプンと漂っている。
いまここでなにがあってもおかしくない。
いま、わたしたちは文字通りカイルに生殺与奪の権を握られている。いや。牛耳られているといっていい。
いまさらながら、ゾッとした。背筋を冷たいものが走りまくっている。
テーブルの向こうに座っているリオンとルーのことを、無意識のうちに見ていた。
ルーは、可愛い顔をわずかにあげ、可愛い形の鼻でにおいを嗅いでいる。
「姉さん、大丈夫。お茶に毒は入っていない」
ルーは、小声で言ってから可愛らしく微笑んだ。
(なんですって? 空中のにおいでわかるものなの?)
かろうじて驚きの声を飲み込んだ。
(ああ。そうね。彼らならわかるかもね)
気を取り直し、クララたちの会話に意識を集中した。