第32話クララの提案
「わたしが慈善活動をしているのはご存知ですよね? 同じ活動仲間なんですが、どうしてかおば様とブランドンの不遇を知っていて、是非会ってみたいと言っているんです。うまくいけば、わたしよりよほど力になってくれる人です。もちろん、ここでではありません。さすがにこの屋敷のことは、おば様とブランドンの許可を得てからでないと言えませんので」
クララの話の内容にうなじのあたりがゾワゾワした。
昔、たまにあった感覚。けっしていい意味での感覚ではない。
(正直なところ、悪い予感しかしないんだけど)
隣に座っているリオンにさりげなく視線を送ると、彼はかすかに肩をすくめた。
わたしたちが反対できるわけはない。
クララのいう慈善活動仲間というのが、キングスリー王国の暗殺部隊の長であるカイル・ノースモアであったとしてもだ。
昨夜遅く、ブランドンがわたしの部屋にやって来る前のことだ。わたしはというと、眠れずに自室内をウロウロしていた。リオンとルーは、この屋敷から王宮まで往復してくれた馭者を捜し出し、そこへ行っていた。どうやって捜し出したのかは、わたしにはわからない。なぜリオンとルーが馭者の所在を探っていたのか? それは、王宮から追いかけることに失敗したカイルたちが、アメリアとブランドンの所在を突き止めるのに馭者に狙いをつけると、リオンとルーは推測したのだ。
その推測は当たっていて、リオンとルーはまたしてもバトッたらしい。そして、撃退したという。
わたしは、そのことにまったく思いいたらなかった。もしもリオンとルーがいなかったら、あの親切な馭者は口を割らされた後に消されていただろう。
そのことをリオンから聞いたとき、ゾッとしたと同時に無力さと口惜しさを味わった。
そして、いまだ。
カイルは、方針をかえたのだ。
クララを利用することにしたのだ。
それをいうなら、カイルは最初からクララがアメリアとブランドン母子と親密なことを知っていて、慈善活動家のふりをしてクララに接触したのだ。
連中の情報収集力は半端ない。
連中はあらゆる手段を講じ、複数のプランを練って準備をするのだ。
「クララ。あなたの知り合いなら間違いないわよね。どうせわたしたちは失うものはないんだもの。会ってみましょう。どうかしら、ブランドン?」
ブランドンがアメリアの提案に異を唱えるわけはない。
(失うものはあるわ。命。それが一番大切なのよ)
自分自身、いつも失うものはないとふっきれている。実際、怖いもの知らず的にムチャをすることもすくなくない。
が、強がりを言っていても、実際死を目の前にしたらどうなるのか?
わたし自身、わからない。
(リオンとルーは、どうなのかしら?)
そんなことを考えている間に、クララがいうところの慈善活動家との懇談の打合せが終わっていた。