表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/67

第30話どうしてあんなことになったの?

「ああ、なんてことなの」


 ブランドンが持って来てくれたホットチョコレートとチョコチップクッキーのお蔭でせっかく眠くなったというのに、すっかり目が覚めてしまった。


 あんなことになるなんて、思いもしなかった。


 ブランドンが部屋にやって来る前と同じように、室内を行ったり来たりしている。


「姉さん、悪いことをしたね。まさか姉さんが彼を襲おうとしていただなんて、おれたちでさえわからなかった。なぁ、ルー?」

「うん。姉さん、ごめんなさい。ふたりで楽しそうだったし、ホットチョコレートのにおいがしていたから、ご相伴にあずかろうかなって」


 リオンとルーは、寝台の上にちょこんと座ってしょげかえっている。


「ホットチョコレート、気に入ったのね。よかったわ」


 リオンとルーに出会ったその夜、彼らに最初にご馳走したのがホットチョコレートとチョコチップクッキーだった。


 それを気に入ってくれたのだとしたら、姉さんはとってもうれしい。


(って、そこじゃない。そこじゃないでしょう?)


 残念ながら、ふたりの真意は読めない。が、ふたりは故意に邪魔をした。


 確信まではいかずとも、ほぼ間違いないと思っている。


 しかし、並んでしおらしく座っているふたりを見ていると、ついつい甘くなってしまう。


「姉さんが襲おうとした相手には、おれたちからも謝っておくよ」

「うん。それがいいね。『ぼくらの姉さんがはしたなくてごめんなさい』って謝ったら、彼も許してくれるよ」

「だから、襲おうとしたんじゃないってば。あなたたちのことが襲撃者に見えたの。ブランドン様をかばっただけよ」

「床に押し倒して」

「床に押し倒して」


 ふたりが声を揃えた。


「まったくもう。かばったのよ、かばったの」


 自分で言いながら、あのとき、理由はどうあれブランドンをたしかに押し倒した。


 神に誓って、下心があったわけではない。


 なにせ彼は、クララの……。


「あああああああっ!」


 真夜中だというのに叫んでしまった。


 クララの想い人を、ついでにクララのことを想っている人を、あろうことか押し倒してしまったことに、いまさらながら気がついたのだ。


「どうしたの?」

「びっくりした」


 リオンとルーは、何が可笑しいのか呑気に笑っている。


「ちょっと、あなたたち。くれぐれも今夜のことは他言は無用よ」

「姉さんが彼を押し倒したこと?」

「だから、そういうふうに言っちゃダメ。いっそ忘れなさい。いいわね?」


 リオンの両肩をつかむと、脳にダメージを与えるほどグラグラと揺すった。


 その両肩が、骨ばっているわりには異常に硬いことに気がついた。


「わ、わかった。わかったよ、姉さん」

「よろしい。ルーは?」


 リオンの方から両手を離すと、ルーの前に立って彼を見下ろした。


「ぼ、ぼくもわかってるよ、姉さん」


 シュンとしているルーがまた、鼻血が出るほど可愛い。


「よろしい。くどいようだけど、今夜のことは見なかったし、聞かなかった。いいわね?」


 くどいけれど、念を押しておいた。


「でっ、窓の外に現れたほんとうの理由は? なにか話があったの? そうだった。わたしも聞きたいことがあったのよ」


 宮殿からわたしたちを尾けていて、リオンとルーが迎え撃ったという連中のことを、もとい古巣の仲間のことが気にかかっている。


 訂正。連中を束ねているカイルもいたのかどうかを聞きたい。


 大広間内で王妃たちに挨拶をしていたが、目的のためにそうそうに切り上げ、追ってきただろう。


 なにせ彼は、自分の欲望を満たすためにみずから獲物を追い、仕留める主義だから。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ