第3話大公女と友達になる
依頼人だった大公女を大公家の馬車まで送り、護衛の騎士たちに託した。
彼女は、今回もであるが依頼をするときもみずからやって来た。
わたしのことを調べたのは、大公家のだれかにやってもらったのだろうけど。
とにかく、彼女はわざわざやって来て、自分でわたしに依頼したのだ。
それだけではない。彼女は、他のご貴族様方と違って偏見を持っていない。生まれながらのご貴族様は、自分ではそう思ってはいなくても、心の片隅や奥底に自分より身分の低い者や劣る者にたいして偏見やわだかまりがある。もっとも、それはご貴族様特有の特性ではない。人間だれしもが持つ業である。人間は、身分が高かろうが低かろうが自分より劣る者にたいして偏見を抱き、下に見る。結果、軽蔑や嫌悪を抱く。
わたしも含めて。
その業は、身分が高くなれば高くなるほど顕著にあらわれる。
もっとも、それは身分の高い者の特権のひとつ。そうあるべきなのだ。そう学ばなければならないし、実践しなければならないのだ。
しかし、彼女は違った。とはいえ、他に比べればまだずっとマシという程度だけれど。
それでも彼女は、最初から底辺でのさばるわたしと対等であろうとした。というか、レベルをグンとさげてくれた。
わたしは、そんな彼女を気に入った。だから、他のご貴族様に比べれば、依頼料のふっかけ率をじゃっかん低くした。他の上位貴族と比較したら、良心的な価格を提示した。
もっとも、彼女は紹介されてわたしのところにやって来た。その他の元依頼人から、依頼料を聞いていたのかもしれない。
「ねぇ、リオ。あっ、リオと呼んでもいいかしら? わたしたちの間には、商売上の関係はなくなったのだから。わたしのことは、どうかクララと呼んで」
彼女は、シンプルな馬車の窓から顔をのぞかせ小声で言った。
その馬車は、ホプキンソン大公家が慈善活動を行うときの専用の馬車らしい。まさか貧民街やそれに類する治安のよくない地域に、大公家のバラの紋章入りの豪奢な馬車は目立ちすぎるからである。それに合わせ、彼女は自分自身はもちろんのこと、護衛や使用人たちも質素な恰好でやって来る。
「クララお嬢様、もちろんリオとお呼びください」
「あなったってば、こういうところは頑固なのね。まぁ、いいわ。ところで、今回のことであなたの手腕は最高だとわかったから、是非ともあなたのことをある人に知らせたいの。かまわないかしら?」
「もちろんですとも」
「じゃあ、また連絡するわね。今回のことは、ほんとうにありがとう。婚約破棄できるばかりか、あいつのグチャグチャになった顔を見ることができて、心の底から『ざまぁみろ』って思ったわ。それが一番ね。わたしってこんなに残酷だったなんて、あのとき初めて気がついたわ」
「いいえ、クララお嬢様。そう思うのが正常です」
クララ・ホプキンソン大公女とは、微笑みあって別れた。