第25話無事に帰宅する
「リオンとルーが帰ってくるのを、あなたといっしょに待つわ」、というアメリアとブランドンを説得するのが大変だった。
とにかく、さきに休んで欲しい。
そう頼みさえした。
「リオ。リオンとルーが帰ってくるのを待ちたいだけじゃないの。今夜のことで、あなたに話しておかなければならないことがあるの」
「リオ。きみに謝らねばならないことがある」
説得している途中、ふたりはそう切り出した。
リオンとルーを待ちたいというより、わたしに話しをしたいということと謝りたかったというのが
本音なのだろう。
「今夜はもう遅いです。おふたりとも、お疲れでしょう? 話は、あらためて明日しましょう。とにかく、今夜はもう部屋にひきとってください」
命の危険にさらされ、いけ好かない連中の相手をしたりやりすごしたり、忍耐やガマンの連続で疲れきっているはず。
「そういうわけにはいかない。おれたちを守ってくれているきみたちにたいして、おれたちは不誠実だ。それは、きみたちを裏切っているのも同じことだ」
ブランドンは、突然熱く語った。
こんなに熱い彼は、初めてかもしれない。
いまの彼は、宮殿の大広間でバカ王子に母親を愚弄されたとき以上に熱くなっている。
「ブランドン様、そんなことはありません。ただ省略されていただけでしょう? 省略されていたのは、わたしたちに必要以上に気を遣わせたくなかったから。それから、不確かなことで混乱させたくなかったから。そんなことでわたしたちは、あなた方に裏切られただなんて思うわけはありません」
笑って告げると、アメリアとブランドンは顔を見合せた。
「では、おれが王子だと知っているんだね? それから、王位継承争いに巻き込まれているということも」
「ええ。知っています。国王の命がかなりヤバい、ということも。文字通り、風前の灯火だそうです。連中は、そうとう焦っているんですね。だからこそ、あなた方を暗殺しようとしているわけです」
「なんてこと……」
いつも気丈なアメリアの華奢な体がおおきく揺れた。
「母上っ」
「アメリア様っ」
ブランドンとふたり、彼女の体を支えていた。
「すみません。いまはまだ告げるつもりはなかったのです。ですが、わたしもあなた方にたいして、それはフェアじゃないと判断しました」
「いいのよ。ごめんなさい。もう大丈夫よ。陛下とはいろいろあったし、もう愛してもいない。だけど、いざとなったらやはり動揺するものなのね」
彼女は、いまだ美しい顔に無理やり笑みを浮かべた。
それが痛々しく、告げたことを後悔してしまった。
「だけど、どうしてそのことを? クララも知っているのね?」
「おそらく、クララお嬢様は知らないかと。もしかすると、クララのお父様は知っているかもですが。ごく一部、具体的には国王の座を狙っている関係者しか知らないでしょう」
あるいは、国王を弑逆しようとしている連中は知っている。
しかし、そのことは告げないでおいた。
アメリアとブランドンがどこまで知っているかはわからない。国王は病に伏していると公式の発表を信じているわけではないが、病にさせられたということまでは確信していないだろう。
国王は、毒を盛られたのだ。それがどういう類の毒かはわからない。が、毒は創作の世界だけでなく、現実世界でも暗殺に用いられるもっとも人気のアイテム。
いずれにせよ、アメリアにいますべてを伝えることは酷なことだ。
「『黄昏の黒狐』と異名のあるわたしは、なんでも調べられるんです。と言いたいところですが、じつは弟たちです。このこともフェアじゃないので正直に話しておきます。あっ、だけど『彼らは、どうやって調べたの?』は、ナシにしてください。わたしにもわかりませんので。ですが、この情報は、宰相の政策方針より確実なことです」
アメリアとブランドンは、顔を見合せた。
わたしの話を理解していないとか信じていないというよりか、頭の中と心の中で整理ができていないのだ。
そのとき、厨房にある扉が開くかすかな音がした。