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第21話いよいよパーティー会場へ

 森の中を通り、宮殿へと向かっている。


 アメリアとブランドンの背を見ながら、さきほどブランドンが言おうとしたことについて推測せずにはいられなかった。


 残念ながら、彼の心を読むまでの時間はなかった。わたしの能力は、ポンコツなところがあるのだ。


「姉さん、ちょっといい?」


 うしろを歩いていたリオンがすぐ隣にやってきた。小声で問われ、ハッとした。


「どうしたの?」

「じつは、図書館で本を読むついでに探りをいれてみたんだ」

「探り? どういうこと?」

「おれたちの護衛対象のふたりのことさ」

「いったいどういうつもりよ? というか、わたしに黙ってそんな面白いこと、じゃなかった、勝手なことをするなんてダメじゃない」


「危ないでしょ」と言いかけ、「ダメじゃない」にしておいた。


 リオンとルーなら、どんなことでもぜったいに大丈夫だという謎の確信がある。


 探偵ごっこも、わたしよりもよほどうまくやるだろうという根拠のない信頼がある。


 自分でもわからないけれど、このふたりの子どもたちは、どんなことでも完璧にやり遂げる気がするのだ。


「王宮に忍び込んだんだ。それでいろいろわかったよ」


 無意識のうちに歩く速度をゆるめ、アメリアとブランドンと距離を離していた。


 リオンの声は、かぎりなくちいさい。が、この森は静かすぎる。小鳥のさえずりどころか、枯葉や枯れ枝を踏みしだく音さえほとんど聞こえない。ふつうよりちいさい声でも響き渡るだろう。


「それで、なにがわかったの?」

「おれたちの護衛対象者の正体は……」


 リオンは、知りえたことのすべてを話してくれた。



 宮殿に到着した。


 じつは、王宮には来たことがある。


 もちろん、招待されたとか招集されたとかではない。それから、悪い意味ででもだ。


 あるご貴族様の依頼を受け、侍女候補のひとりとして潜入したのだ。


 王宮付きの侍女になれるかどうかの選考会で、実際に数日間住み込みで働けねばならなかった。王宮付きの侍女は、下級貴族はもとより平民でもしっかりとした身持ちのレディたちに人気の職種だ。たとえ数か月間であろうと、王宮で働いていたというステータスはなにものにもかえられない。転職するにしても結婚するにしても、なにかと有利になる。さらには、給金がすごい。そして、書物のヒロインのように王子や宰相や騎士団長の目に留まり、身分の差などものともせずにしあわせをつかめるかもしれない。


 そんなベタな筋書きは、いつの時代、どこの国でも身分は関係なくレディの間では大流行りなのだ。


 もちろん、わたしにそんな少女チックな夢はない。超現実的な理由で選考会に参加したのだけれど。


 とにかく、ふるいにかけられた数名の侍女見習のひとりとして王宮に潜入したわけ。潜入し、依頼を成功させるべくせっせと情報を収集し、さっさと工作をした。


 結果、かんじんの依頼はうまくいった。一方、侍女の方は落ちた。


 悲しいとか残念とかはない。もちろん、後悔もしていない。


 そもそも目的が違ったのだ。侍女の仕事を、全力どころか真面目にやりさえしなかった。ガチな侍女見習の人たちのことは、尊敬している。あれだけなんでも完璧で忍耐強いのだから。彼女たちへのリスペクトは、最後まで忘れなかった。


 しょせん彼女たちとわたしとでは、畑が違うのだ。


 それはともかく、王宮にはこれで二度目。あのときは、さんざんかぎまわった。が、アメリアとブランドンの存在はもちろんのこと、森の奥にあんな建物が建っていることも気がつかなかった。



 宮殿には、正面の大階段から入ったわけではなかった。裏から入った。


 ひっそりとした廊下を進む。


 警備兵も護衛騎士たちの姿も見えない。


 パーティーに備え、大広間を中心に警備をしているのだろう。


(それにしても、警備が手薄すぎるわよね。これなら、紛れ込んでくださいっていわんばかりよ)


 モート王国では、戦争どころか内乱もひさしく起ってはいない。権力争いでさえ、比較的穏便だったという。


 あくまでもいままでは、だけど。


「おば様」


 大広間へと続く大廊下に出たところで、クララが待っていてくれた。 


「クララ、きれいだわ」

「クララ、きれいだよ」


 アメリアとブランドンは、ソッコーで彼女に称讃をおくった。


 わたしのときとは違い、「きれい」という言葉が心の底からの真実の声っぽい。それだけでも、わたしへの「きれい」が社交辞令だったのだとわかる。


「姉さんだって負けてやしないよ。彼女の方がわずかに洗練されてるってだけさ」

「彼女は、あんなドレスを着慣れているんだもの。きれいに見えて当り前だよ」


 リオンとルーが口の形だけで伝えてきた。


(なんて可愛くてやさしい弟たちなの)


 ふたりのやさしさに感動を覚えずにはいられなかった。


「ふたりとも、ありがとう。気にしてないわ。だって、彼女はほんとうにきれいよ。彼女とわたしを比較する方がおかしいわ」


 本音である。


 いまのクララは、いつも以上に気高くて美しい。


 彼女が生まれながらの大公女というだけではない。持って生まれたモノが、わたしも含めた多くのレディとは違っているのだ。


「クララ。きみの美しさにはまいったよ」

「ブランドン。あなた、いつの間にそんなにお世辞が上手になったの?」


 ブランドンは、クララをやさしく抱きしめた。クララはそれを受け入れたばかりか、抱きしめ返したではないか。


(やはり、ブランドンはクララにゾッコンなのね。そして、クララも彼のことを……)


 前々からそうではないかと勘繰っていた。


 こういうことには縁がなくって疎いわたしだけど、さすがにブランドンとクララの親密さには気づかざるを得ない。


 ふたりは、そういう仲なのだ。


 クララは、それもあって元婚約者のクズ野郎と婚約を破棄したかったのだ。


 もっとも、政略結婚とはいえ婚約者の顔と体を物理的にグチャグチャにしてやろうなんていうクズ以下のやつとは、婚約破棄して然るべきだ。遅すぎたくらいだ。


 とはいえ、彼女はクズ婚約者と婚約破棄できたお蔭で、ブランドンと付き合えるはずだ。が、リオンとルーが得た情報では、それもいまは難しいらしい。


「おば様、パーティーはもうはじまっています。ブランドン、リオをちゃんとエスコートしてあげてね」

「あの、クララお嬢様。ブランドン様のパートナーは、クララお嬢様の方がよほど適任かと……」


 親密さを見せつけられ、それでもブランドンにエスコートしてもらうほどわたしはド厚かましくはない。それから、空気が読めないわけでもない。


「クララお嬢様。大公閣下が呼んでいらっしゃいます」


 提案しかけたところで、クララの執事のレッド・マクレガンがやって来た。


 マフィアのボスのサディアスの片腕ジャック・マクレガンの双子の弟で、兄のジャックが知的な美貌の持ち主なのに、彼はやさしくて穏やかな強面である。


「リオ。わたしのパートナーは、彼なの。彼は執事だけどマクレガン公爵家の四男坊だから、わたしのエスコート役としてはまったく問題ないわけ。まぁ、お父様は嫌がるんだけどね。だけど、わたしもいまはフリーでしょう? レッドでもパートナーになってもらわないとってわけ」

「お嬢様、それはあまりの言い方ですよ」


 レッドは、言われ慣れているのだろう。笑っている。


 強面なのに、笑顔が可愛い。


「さあ、行きましょう。リオン、ルー。エスコートをお願いできるかしら?」

「よろこんで」

「お引き受けします」


 リオンとルーがアメリアをエスコートし、わたしはブランドンにエスコートしてもらい、いよいよ大広間へと向かった。

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