第19話パートナー
アメリアとブランドンのパーティー参加に同意したことを後悔した。マジで後悔した。
「おとなしくなさい」
「い、いやです。苦しすぎます」
手持ちのドレスでは、王家主催のパーティーに参加できない。
というわけで、クララがドレスを準備してくれた。が、それがまた着用するのがまたひと苦労だ。
ドレスは、何度でも着用している。この国でも、依頼を受けてご貴族様の屋敷で行われるパーティーに潜入したり、知人を装って訪れる際に着用している。今回も最初の日に着用した。祖国でも任務で着用したことはある。
が、今回はちゃんとしたドレス。クララが準備してくれたのは、コルセットを着用して引き締めまくって着用しなければならないガチのパーティー用ドレス。胸元はちゃんとおおわれているし、ド派手でも豪華すぎるのでもないところが、まだマシだといったところか。
まったく容赦しないクララに手伝ってもらい、なんとか着用することができた。
「クララお嬢様。これだと、危急の際にうまく動くことができません」
鏡に映るあまりの不格好さが恥ずかしくなり、クララに訴えてみた。が、彼女は意に介さない。
「これでも最低限よ。ガマンなさい」
どういうレベルの最低限なのかはわからない。
いずれにせよ、ご貴族様って大変なんだとあらためて感じた。
「さあ、パートナーがお待ちかねよ」
「パートナー?」
彼女に手をひっぱられ、つまずきそうになりながらエントランスへと向かう。
なにかあったときは、ハイヒールは脱ぎ捨てるしかない。
(というか、ちゃんと歩けてないわ)
これではまるで、生まれたてのシカだ。
エントランスでアメリアとブランドンと子どもたちが待っていた。
「リオ、素敵だわ」
アメリアは、わたしの手を取ってお世辞を言ってくれた。
「そ、そうですか? ドレスが素晴らしいので、そう見えるだけだと思います」
先程見た姿見の中のわたしは、ドレスを着こなしているようには見えなかった。そもそも、ちんちくりんにドレスは似合わないのだ。
(それにしても、ドレスをわたし用にお直ししてくれたなんて、よほど経験豊富な仕立て屋さんね)
クララは、自分が使わなくなったドレスのサイズを直してくれたらしい。正確には、以前、自分用にあつらえたものの、地味すぎて一度も着用しなかったという。それをわたし用にとお直ししてくれたのだ。
よほど保管状態がよかったのだ。まるで最近購入し、届けてもらったように新品感が漂っている。
ふだん古着しか着用していないので、こういうドレスはたとえ地味でもピカピカ感が半端ない。
「アメリア様もふだんから素敵ですが、よりいっそう素敵です」
たとえお世辞でも褒められれば褒め返すのが、ご貴族様のマナーなのだ。もっとも、アメリアの場合は、ほんとうに素敵だけど。
淡い紫色で地味なデザインのドレスは、彼女によく似合っている。
「ありがとう。母の形見のドレスだから流行遅れなんだけど、気に入っているのよ」
アメリアのお母様なら、素敵な人だったのだろう。
「リオ、ほんとうにきみかい? 見違えたよ」
そのとき、ブランドンまでお世辞を言ってくれた。
「あ、ありがとう。ブランドン様もいつも以上に素敵ですよ」
彼のキラキラ感が半端ない。まぶしさで目がくらみそうになったほどだ。
「あんたたち、バッチリきまってるじゃない」
ブランドンのキラキラから逃れるため、視線を下に向けるとリオンとルーもタキシードを着用している。
彼らもまた、生まれながらの貴族子息のようにバッチリきまっている。
子ども用のタキシードは、既製服を購入してくれたらしい。もちろん、クララがである。
「おば様、わたしも急いで屋敷に準備をしに戻ります。街馬車が待っています。それで王宮へいらっしゃってください」
「王宮で会いましょう。クララ、いろいろありがとう」
クララは、わたしの準備を手伝うためにわざわざ来てくれたのだ。
「さあ、レディ」
ブランドンが腕を軽く曲げ、促してきた。
「リオ。ブランドンが今夜のパーティーのエスコート役なの」
「なんですって? アメリア様。エスコート役がブランドン様だなんてもったいなさすぎ、いえ、畏れ多いです」
「リオ、おれでは気に入らないかい?」
「いえ、そういうわけでは……」
「だったら、腕を」
「ブランドン様のご命令とあらば」
ブランドンの腕に自分のそれを絡めた。
「アメリア様」
「アメリア様」
すると、リオンがアメリアの右側から、ルーがアメリアの左側から、それぞれ腕をだしたではないか。
「まぁ、紳士諸君。こんなおばさんをエスコートしてくれるの? どうしましょう」
少女のように顔を赤らめたアメリアが可愛すぎる。
「おばさんだなんて、アメリア様はまだまだお若いですよ」
笑ってしまった。彼女は、見た目も中身もまだまだ美しくて若々しい。
「社交辞令でもうれしいわ。では、お願いね」
両腕を少年たちにとられ、アメリアはうれしそうだ。
「他人から見たら、孫に介助してもらってる感じよね」
アメリアはそう言って苦笑した。
くどいようだが、彼女の美しさは本物だ。実際、そこまでの年齢ではない。
ブランドンもそう思っているらしい。彼と顔を見合せ、同時に肩をすくめた。