第18話王家主催のパーティーに出席する?
さっそく、クララのお母様の実家の屋敷に移り住むことにした。
とはいえ、あくまでも仮住まい。身のまわりのいくつかの物を事務所兼自宅から持ってきただけだ。
事務所の扉には、『依頼遂行中のためしばらく不在にしています。お急ぎの方は、連絡先を扉の隙間にはさんでください。のちほど連絡いたします』と書いてはっておいた。
依頼人候補は、そうたくさんやって来るわけではない。と、想定しての処置だ。
おとなが三人と子どもが二人という生活は、こんなに静かなものだろうか。
これがふつうの家族なら、めちゃくちゃうるさいのかもしれない。
しかし、ここにいるのは家族ではない。さらには、ふつうの人でもない。
アメリアとブランドンは、なにせ王族に名を連ねる人たち。いつも穏やかで静かでおとなしい。そして、リオンとルーも同様だ。屋敷にいる間は、めちゃくちゃおとなしくしている。もちろん、わたしもだ。できるだけ「静かに穏やかに」、を心がけている。
日中、リオンとルーは図書館に行って本を読んでいる。帰宅後は、アメリアやブランドンから歴史や政治や宗教を教えてもらっている。
わたしはというと、あまりの暇さに屋敷内の掃除をしまくったり、アメリアからパンやクッキーをはじめとして、料理やスイーツ作りを学びつつ、食事の準備を手伝っている。
この日、クララがやって来た。
彼女は、二日後に迫っている王宮でのパーティーでの打ち合わせにやって来たのだ。
そのパーティーは、王族と上位貴族たちについては、ぜったいに出席しなければならないという。
はやい話が、アメリアとブランドンは、ぜったいに出席しなければならないのだ。
その話を聞いたとき、即座に反対した。
不特定多数の人がいる中に、みずから飛び込むのは愚の骨頂すぎる。だからこそ、反対したのだ。
が、アメリアとブランドンとクララは、頑なだった。なにがなんでも出席しなければならないらしい。
「やはり反対です」
この日も、居間の長椅子に座った途端反対を唱えた。
とはいえ、いまさらだけど。さらには、ぜったいに受け入れてもらえないけど。
「リオ。あなたってほんとうに強情よね。だったら、あなたも出席なさいな。リオンとルーも一緒にね」
「なんですって? 貴族どころか著名人でもないわたしが出席できるわけありませんよ」
「大丈夫よ。わたしたちが招待した他国の王女と王子様にするから。わたしは、こう見えてもキングスリー国の王族と親しかったの。とはいえ、十数年前のまだわが国と親密だったときのことだけど」
アメリアの言葉にドキリとした。
「なぜそう思われるのですか?」
尋ねた声は、自分でもかすかに震えているのを感じた。
「リオとリオンとルーという名は、キングスリー国の古語でかの国でよく使われている名前よ。他の国でも意味を知らずに使うことはあるけれど、三人が三人ともキングスリー国の古語にちなんだ名前って、偶然にしてはできすぎているもの。このモート王国では、いまはもう研究者や老人はいないから三人ともにキングスリー国の古語にちなんだ名前をつけるマニアックな人はいないと思うわ」
「もしもわたしたが、いえ、わたしたちがキングスリー国の国民だとして、それでうまくごまかせますか? アメリア様とブランドン様のすぐ側で護衛ができますか?」
アメリアとブランドンのことは、「様」の敬称で呼ぶことにした。
もっとも、ふたりとも「様」不要だというけれど。こちらにしたら、そういうわけにはいかない。
「どこまでごまかせるかはわからないけれど、遠くの方で見守ってもらうよりかは安全だと思うわ」
「だったら、その策でいきましょう」
仕方がない。
妥協は必要だ。