第16話アメリアとブランドン母子
「リオさん、はじめまして。わたしは、アメリア・モヘット。よろしくね」
「はじめまして、モヘット夫人。リオ・ラザフォードと申します」
敬称をどうしようかと迷ったけれど、無難に夫人とつけておいた。
クララのお母様の友人にしては、彼女は二十代後半か三十代前半とずいぶん若く見える。いずれにせよ、ご貴族様であることは間違いない。ということは、一度は結婚しているはず。だとすれば、カッコいい彼は、彼女の甥っ子だろうか。
アメリアは、金髪に空の色と同じ蒼色の瞳。ブランドンは、金髪にルビー色の瞳。どことなく雰囲気が似ていなくもない。
そんなことを考えていると、手を差し出されたので握手を交わした。
ご貴族様にしては、ド平民以下のわたしに自分から名のり、握手を求めてくるのはめずらしい。
「ブランドン・モヘットです。きみのことは、クララから聞いているよ」
カッコいい彼もまた、握手を求めてきた。
「いい内容だといいんですけど」
彼がカッコいいからというわけではない。自分では素敵と思う笑顔で握手を交わした。
「そちらの可愛らしい子どもたちは?」
「自慢の弟たちです。上の弟がリオン。下の弟がルーです」
「上の弟さんは、ブランドンの幼い頃に似ているわ」
アメリアは、子どもたちに近づくと両膝を折って目線を合わせた。
そして、リオンを、さらにはルーを抱擁した。
ふたりは、アメリアの予期せぬ動作にドギマギしている。
「モヘット夫人、はじめまして」
リオンはなんとか反応したものの、ルーにいたってはかたまってしまっている。
あれほど驚異的なパワーを持つルーが、レディに抱擁されてボーっとしているのだ。
(って、どういうこと? ふたりとも、わたしに対する態度とずいぶん違うんじゃない? だったら、ハグしまくってやろうかしら?)
ちょっとだけジェラシーだ。同時に、意地悪になった。
「母上。馴れ馴れしくしすぎでは? ふたりとも、戸惑っていますよ」
「なんですって? おふたりは親子なのですか?」
ブランドンは、どこからどう見ても二十代前半。たしか、モート王国で婚姻できるのは十八歳。妊活がうまくいき、十八歳でブランドンを産んだとしても四十歳前後ということになる。
「ええ。似ていないでしょう? わたしとは違って、息子はかしこくてやさしくてしっかり者なのよ」
「おば様、親バカすぎますよ」
「あら? クララ、そうだったかしら? 初対面の挨拶は終わったから、朝食にしましょう。さあ、ふたりともいらっしゃい」
アメリアは、右手でリオンの手を、左手でルーの手を、それぞれ握って居間を出て行ってしまった。
「すまないね、ふたりとも。母は、子どもが大好きすぎるんだ」
「おば様らしいわ。リオ、わたしたちも行きましょう」
ルーはともかく、リオンのあの表情。
いつも冷静で落ち着きすぎている彼のあんなに戸惑った顔を見たのは初めてだった。
そう考えると可笑しくなってきた。
慌ててクララとブランドンを追いかけた。