第14話微笑ましいけれど、縁のない光景
わたしのことはさておき、少年や青年というのは、めちゃくちゃ食べるという印象がある。実際、わたしたちのまわりで食べている男子たちは、親や兄弟の分まで奪って貪り食べている。男の子だけではない。女の子たちも同様だ。もっとも、平民とは違って貴族のご令嬢たちは、見栄えを気にしてたべないことがあるけれど。
それを差し引いても、リオンとルーは控えめだ。
「遠慮はいらないわよ。まだまだあるから」
「贅肉や筋肉がつきすぎると、動きがにぶくなるから」
「なんですって? そんなこと、気にする必要ある? わたしからすれば、ふたりとも痩せているわよ。もしかして、ずっとそうなの? ずっとそんなストイックな生活なの?」
食べる物を制限し、眠る時間もすくない。
何が面白くて生きているんだろう。
特に食べることは、人間にとって一番大切だ。それをこんな子どもの頃から制限するなんて、わたしには考えられない。
子どもの頃に飢えまくったわたしだからこそ、余計にそう思う。
とはいえ、無理強いはできない。
彼らがここに、というか、わたしの側にいる間に意識をかえてゆけばいい。
「姉さん、大丈夫だよ」
木製のテーブルの向こう側で、リオンが微笑んだ。
わたしの心を読んだのだ。
彼は揚げパンの切れ端を口に放り込み、口のまわりを指先で拭った。
その隣では、ルーが無邪気に笑っている。
結局、わたしがほとんど平らげた。
「何か欲しいものはある? 今日はもう家探しはやめて、あなたたちの必要なものを揃えましょう」
「欲しい物というよりか、図書館で本を読みたいな。この世界に関する知識をつけておきたいんだ」
「リオン、ほんとうに真面目な子ね。残念だけど、今日は図書館は休館なの。だから、明日以降にまた行きましょう。とりあえず、コップとか皿とか、生活に必要なものを揃えましょう。定期市なら、生活必需品のほとんどが手に入るから」
定期市ならありとあらゆる店がある。街でふつうの商店を見てまわるより効率的だ。
というわけで、ウロウロと見てまわった。
夕方近くになっても、多くの人でにぎわっている。だれかとぶつからないように避け、あるいはかわしつつ歩いていく。
リオンとルーは、まったく欲がない。子どもが欲しがるような物を欲しがらない。最低限の生活必需品でさえ、安価な物を選ぶ。
表向きの姉としては、張り合いがなさすぎる。
多くの家族連れやカップルで賑わう中、思いつく物を購入できた。
夕食と寝る前のクッキーも購入し、喉が渇いたのでレモネードを飲むことにした。定期市から離れて中央広場内にある図書館の近くのベンチに並んで座った。
「あそこが図書館よ。モート王国だけでなく、近隣諸国でも負けないくらいの蔵書数よ。この大陸以外の大陸にある国々に関しての本もあるから、勉強になるはずよ。どうしたの、ルー?」
リオンをはさんで向こうに座っているルーが、遠くの方を見ていることに気がついた。
その視線を追ってみた。
両親とふたりの子どもたちが、わたしたちと同じようにベンチに並んで座ってアイスクリームを食べている。
微笑ましい光景だ。
わたしには縁のない光景。
(おとなのわたしには縁がないけれど、子どものルーには……)
胸がチクリと痛んだ。
「ルー。あんなのは、まやかしさ」
隣のリオンがつぶやくように言った。
「まやかし? どういう意味?」
その単語の意味がわからず、尋ねてみた。
が、リオンは答えてくれなかった。
ルーは、リオンの向こうでちいさな肩を落としていた。