第13話家探し、それからお買い物
まずは、服の購入だ。
リオンとルーが着用しているのは、着物というらしい。ふたりとも、その恰好はめちゃくちゃ似合っていてカッコいい。が、ここでこの恰好は奇抜すぎる。とはいえ、この王都にはさまざまな国の人の出入りがあって、それぞれの国の伝統的な衣服を着用している人もすくなくない。わたしにとっては奇抜すぎる恰好でも、人混みに紛れ込んでしまえばそれほどではない。そのはずだ。とはいえ、まさかずっとそれを着ているわけにはいかないだろう。というわけで、替えの服を買いに行った。
もっとも、ご貴族様御用達の店に行ったわけではない。贔屓にしている中古品を扱う店である。そこでは、着古された衣服も売っている。というわけで、彼ら自身に選んでもらった。
カジュアルなシャツとズボン。フォーマルな子ども用のスーツ。スーツは、上流階級、つまりご貴族様の依頼のときに着用することになる。
試着させたが、ふたりともカジュアルな恰好もフォーマルな恰好も似合いすぎていて鼻血ものだった。
とくにフォーマルな恰好をさせたら、絵に描いたようなご貴族様だ。
これでマナーさえ身につけさせれば、どこにだしても恥ずかしくない。
これでは、表向き姉のわたしは完全に足を引っ張ることになる。
ちなみに、中古店の店主夫妻も驚いていた。
依頼人の息子か、と聞かれたくらいだ。
そのあと、そのままの恰好で家探しをしたが、だれもが見ていた。
わたしを、ではない。彼らを、だ。
正直、自分自身のことは諦めている。
しかし、訳ありの姉弟関係とはいえ、訳あり弟たちが他人から褒められり好意を向けられるのはうれしいものだ。
ついつい有頂天になってしまった。
それでついついふたりを連れ歩いてしまった。
とはいえ、いまはカジュアルなシャツにズボン姿。それでもそこらの少年よりよほど美しくて可愛く、なにより気高い。
(自慢の弟たちね)
周囲の視線が集まる中、堂々と練り歩いた。
と、そこはいい。
問題は、家探しだ。
何軒か周旋屋をまわってみたが、こちらのニーズにあうものがない。
というか、ぶっちゃけ破格の家賃で条件のいいところがないのだ。
昼をとっくの昔にまわった頃、さすがにお腹が減ってきた。昼食をとるため、中央広場に向った。
そこでは、月に二度定期市が行われている。肉、野菜、果物、パンといった食料品はもちろんのこと、雑貨品や家具類や本や花、さらには家畜や木や宝石まで、じつにさまざまな露店が並んでいる。もちろん、王道の屋台も多数ある。
その屋台で美味しいものにありつこうというわけだ。
中央広場に到着すると、迷うことなく屋台ばかりが並ぶ区画へ入った。
定期市は、なんでもあるのだ。
「さあ、なにがいい? 好き嫌いはあるのかしら?」
ふたりに尋ねたが、どちらも「なんでもいい」という。
「じゃあ、行きつけの屋台に行きましょう」
その屋台の店主は、元依頼人だ。依頼料を断ったため、そのかわりにご馳走してくれるのだ。
もちろん、毎回行くわけではない。さすがのわたしも、そこまでド厚かましくはない。
とはいえ、そこの肉汁滴る網焼きと揚げパンが最高だから、ついつい足が向いてしまう。
店主にふたりを「弟たちよ」と紹介すると、店主はいつもの五倍の量を持たせてくれた。
「食べ盛りだ。足りなかったらまた来てくれよ」
店主は、網焼きと揚げパンをおおきな紙袋に入れて持たせてくれた。
違う店で、って、そこも元依頼人だけど、そこで搾りたてのフルーツジュースをいただき、椅子やテーブルが置いてある区画に移動した。
朝、サディアスにあれだけ朝食をごちそうになったのにもかかわらず、とてつもない量を食べてしまった。
食べ盛りであるはずのリオンとルーよりも。
というか、彼らは控えめに食べている。
(男の子って、こんなものなの?)
わたしが彼らの年齢のとき、人生の中で一番つらく苦しい時期だった。食べる物はなく、つねに飢えていた。食べる物を得るためには、他人の物を奪うかゴミを漁るか自然の物をとるかしかなかった。
わたしは、後者ふたつを選んだ。そのためにお腹を壊したり毒にあたったり、なんてことはしょちゅうだった。
だからこそ、食べ物があるときには全力で味わい、堪能する。
そういうことにしている。
もっとも、そういうことを食いしん坊だというのだけど。