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第11話朝食をいただく

 そればかりか、彼らはゆっくり近づいてきた。しかも、手を差し出しつつ。


(ラザフォード家の次男? そんなのがいたわけ?)


 わたしは、この王都どころかモート王国の出身ではない。紆余曲折を経、この国の王都に流れ着いたのもわずか一年ほど前のこと。


 ラザフォード家の次男の存在を知らなかったとしても仕方のないことかもしれない。


 と、頭ではわかっている。しかし、なんとなく悔しい。


 こういう商売をしている以上、あらゆる情報を知っておかねばならない。


 とくに今回は、ラザフォード家の息子が関わっていたのでちゃんと調べ上げたつもりだった。


(それなのに、こんなに目立つ息子もいたなんて……。わたしもまだまだね。って、へこんでいる場合じゃない)


 眼下に差し出されたままのサディアスの手。


 それを握らねばならない。


「レディ。おれの存在を知らなくて当然だよ」


 サディアスが囁いてきた。


 一瞬、彼も他人の心が読めるのかと思った。


「おれは、きみたちの敵じゃない。いまのところはね」


 さらに囁いてきた。


「敵じゃない宣言? その宣言を信じて背を刺されるのは、あるあるよ」


 悔しまぎれというわけではない。威嚇をするつもりもない。


 だけど、そう言いたくなったから言ってみた。


 とはいえ、差し出された手を握らないほどマナーが悪いわけではない。部下たちの手前、彼に恥をかかせるほど意地悪でもない。


 さらには、余裕があることもアピールしたい。


「朝食、ご馳走になるわ。もちろん、弟たちもいっしょにね」


 というわけで、全力の笑みを浮かべて彼の手を握った。


 

 屋敷内は、豪華でも派手でもなかった。殺伐としていた。


 メイドの姿はなく、雑事や食事の用意はすべて男がやっている。


 まぁ、当然といえば当然だろう。


 食事は、パン屋のパンと卵とベーコンとリンゴだった。それとミルクにお茶。


 ふつうのメニューだ。


 ご貴族様のような朝食を思い浮かべていたので、ちょっとだけガッカリした。


 それでも、タダで朝食にありつけるのだ。


 というわけで、ありがたくいただいた。


 食べる前、習性でにおいをかいだ。もちろん、毒系や異物が入っていないかどうかをたしかめるためだ。もちろん、あからさまにではない。さりげなくだ。


 味覚や視覚だけでなく、嗅覚も楽しむような食事ではない。あからさまににおいを嗅ぐのは、マナー的によろしくないだろう。


 今回の場合は、いかにも毒やなにかしらの薬が入っていないかをたしかめることを確認するのは、ホストであるサディアスに失礼にあたる。


 食事そのものは、静かだった。


 長テーブルにサディアスと知的美貌男子と、リオンとルーとわたし。二対三で黙々と食べた。


 気になったのは、リオンとルーだ。


 テーブルマナーがちゃんとできている。すべての所作が、洗練されている。


 それをいうなら、サディアスと知的美貌男子も上品だ。


 この場にいる唯一のレディであるわたしが、まるで飢えた野獣のようにガツガツと食べてしまった。


 それこそ、においを嗅いで安全を確認した直後から、ガンガン食べたのだ。


 わたしが、この場の雰囲気や品位を貶めたといっても過言ではない。


 そんな朝食の後は、居間で食後のお茶をいただいた。


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