第1話
新連載始めました(◍•ᴗ•◍)
よろしくお願いします♪♪
私キルステン・ガーフィールドが、夫であるジョージと結婚したのは、もう三年前だ。
「ジョージ、明日の朝早いのだから、もうお酒はそのぐらいにしたら?」
「ああ、そうだな。そうするか。キキ、体調はどうだ?」
「もう平気。ごめんなさい心配をかけて」
「いいんだ。僕の留守中に何かあったら、直ぐに姉さんの所へ行くんだぞ?いいな?」
食卓の上で私の手をしっかりと握る夫。
政略結婚ではあったものの、私と夫はとても上手くいっていた。……ただ、まだ子宝には恵まれていない。
私はまだ微かに痛む下腹部へ、もう一方の手をそっと添えた。月のものが来る度に私は絶望する。そんな私に夫はいつも優しく『焦らなくても良い。まだ僕たちは若いんだから。それにまだキキとは二人きりで過ごしたいんだ』と慰めてくれた。
夫は早くに両親を亡くし、十八で伯爵位を継いだ。私はその二年後、彼に十八で嫁ぐと伯爵夫人として、三年間必死にこの家を守ってきた。
あとは子どもだけ……焦らなくて良いと言われても、素直にそれを受けとめられない自分が居る。夫もそれを分かってくれているのか、必要以上に慰める事もなかった。何を言われてもつい卑屈になる私を優しく包み込んでくれる彼が好きだった。
「ええ。お義姉様に相談します」
……ここから馬車で少し行った所に夫の姉であるパメラの婚家があった。しかし、私は何があったとしてもこの義姉には頼るつもりはない。
『はぁ……。またダメだったの?ねぇ、貴女ガーフィールド家を潰す気?』
義姉は私の顔を見る度に、子はまだかと催促していた。もちろん、嫁いだ以上子孫を残す事も私の仕事だと分かっている。しかし分かっていてもどうしようもない事がこの世にはあるのだ。
『神様にしか分からない事ですので』
曖昧にそう言う私に、
『じゃあ、貴女は神にも嫌われてるって事ね?』
と嫌味っぽく言った義姉の顔を忘れる事が出来なかった。
「さて、寝るか!!」
「ジョージ、湯浴みは?」
「酒を飲んでしまったし……体を拭くだけにするよ。どうせ……今日はキキも無理そうだしな」
とジョージは私の手の甲を撫でた。
月のものがある間、私は体調を崩しやすかった事もあり、ジョージとは別々の寝台で休んでいた。ジョージの言わんとしている事が分かって、私は少し頬を染めて、俯いた。
「相変わらずキキは恥ずかしがり屋だな。もう身体の隅々まで知っているというのに」
「……口に出して言わないで……」
そう、私達は上手くいっていた。
ーあの人が帰ってくるまで。
「あら?ジョージは?」
「今は領地へ。この前の大雨で川が氾濫してしまって。被害は然程無かったと報告は上がっていますが、様子を見に」
「あぁ……そう。まぁ、いいわ。出直してくるから。あとどれくらいで帰るの?」
義姉のパメラが訪ねてきた理由なら、見当はついている。しかし、私からは何も切り出しはしない。
「多分……あと一週間もすれば戻るかと思いますわ」
「え?一週間?……困ったわね……」
また彼女は借金をしたようだ。返済期限が近いとみえる。
夫の姉パメラは金遣いが荒く、何度も夫であるカールトン伯爵から苦言を呈されていた。最近は伯爵にバレない様に買い物をし、借金がかさむと、ジョージに金の無心に来るのだ。優しい夫は姉に文句を言いつつも、金を貸している。……正直、返して貰える当てのない金だ。
「ねぇ………キルステン。貴女のネックレスとても素敵ね」
パメラの視線は私の胸元に煌めくネックレスに注がれていた。
「ジョージが結婚記念日に買ってくれた物なんです」
私は愛おしむ様に、そのネックレスのペンダントヘッドに埋め込まれたルビーを撫でた。
私の赤い瞳に合わせてジョージが選んでくれた物だ。
「今度、セーブル夫人のお茶会に誘われてるんだけど、ちょっと貸してくれない?」
パメラは私が返事をする前に、手を伸ばしてきた。
私は無意識にその手を避ける様に後退りする。パメラはその態度にムッとした。
「何よ、ちょっと見せて貰おうと思っただけじゃない!」
「す、すみません。大切な物でしたので……つい」
そんなやり取りも、本当は面倒くさい。さっさと帰ってくれないかしら?そんな考えが表情に浮かんでいたのだろうか?それとも私の先程の態度に苛ついたのか……パメラは大袈裟に溜め息を吐くと、
「貴女と話していても埒が明かないわ。一週間後、また来るから」
彼女は派手なオレンジ色のデイドレスを翻して屋敷を出て行こうとした。
しかし彼女はふと立ち止まり振り返ると、私にこう言った。
「そうだ。ジョージに伝えてくれない?グラディスが帰って来たって」
彼女はそれだけ言い残すと、何故かニヤリと笑って出て行った。
私はそっと息を吐く。彼女の威圧感が苦手だった。
グラディス……誰の事かしら?私は首を傾げた。
近くにいた執事に尋ねる。
「ねぇ、グラディスって誰かしら?」
執事は少しだけ口籠ると躊躇いがちにこう言った。
「旦那様の元婚約者の方でございます」