プロローグ
ーーいつからか、息をするように嘘を吐くようになった。
ーーいつからか、逃げ出す事ばかりが板についてしまった。
たかだかタバコの煙が爆煙の如くオフィス街に立ち上る。
季節は冬、である。
ーー「酒でも買って帰るか...」
さむっ。
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ほんの少しだけ、自分語りをしよう。
如何にも芸能人崩れな空気感で歩いているこの男"皇 冬夜"の生きた28年間は、如何にも"クズ"という言葉が似合う道のりであった。
高校生活は、ある日ムカっとして割りまくった校舎の窓ガラスと共に途端に終わりを告げ、
初体験は中学生上がりたての頃に二つ上の先輩に速攻奪われて終了。
学校を中退してからは親父の仕事に駆り出されては、前日仲間と覚えたてのお酒を飲み過ぎサボりまくり、
挙げ句の果てに家族からも追い出される始末...。
そんな僕にも生き甲斐はあった。
学校中退してからのある日。
何の気力も無くひたすらに親の脛を齧り、引き篭もっていた頃。
僕は、家の中で親父が昔弾いていたであろう一本のギターを見つけたのだ。
そこからはあまり覚えていないのだが、
僕なりに"何も無い"僕に"何か"を見つけようとしていたんだと思う。
毎日毎日、日が暮れるまで弾いていた。
それくらい当時は居場所を作る為に必死でもあったのだ。
時は過ぎ、近所でメンバーを見つけてバンドも組んだ。
色んな人に出会って色んな場所で演奏する様になった。
こんなにも自分次第で世界は輝くんだ、なんて柄にもなく思ったりしたっけ。懐かしいな。
その反面、酒を覚えてやらかしまくり親父がくれた仕事もバックれて家追い出されてるんだけどな!
まあ、その時は気にしなかったよ!バカみたいだよね!ごめん!この話やめよう!
そんな中、当時付き合っていた彼女の家に居候をしていたのだがマッシュヘアのクソ男に寝取られ(笑)て不貞腐れていた俺の元に一通のメッセージが入った。
ーーー「お前の人生、背負わせてくれないか?バンドをやろう。」
思えばここが僕のターニングポイントだった様にも思える。
今となってはどっちでも良いが。
その男"今枝宏二は地元では有名なカリスマボーカリストであった。
そしてどうしようもなく真っ直ぐな男で、僕も次第に心を奪われていき、
気が付けば6弦を彼の隣で掻き鳴らせる事が誇りですらあった。
トントン拍子に良い話は舞い込んできた。
これでもこの国の三大ロックフェスのうち、二つは出たんだぜ?すごいだろ?
今じゃたまにキャバ嬢に自慢するだけの武勇伝になってるわけだが。
まあ、それはよしとしよう。悲しくなるからね。ねー。
忙殺されそうな程慌ただしい日々を過ごしていた。
バイト、スタジオ、ライブ、レコーディング。如何にも充実していそうな風に思えるだろう?
そう。充実はしてるのよ。
でもどんなにロックフェスに出ようともどんなに良い話が来ようとも飯は食えなかった。
そりゃあそうさ。自主制作しようもんなら抜群に原価率の高いCD文化は衰退。他のグッズをつくろうにもそれをライブの日に売ろうにも1日を過ごす金額にならない現実。
バイトもする余裕のないスケジュール。日に日に心は弱っていった。
そんな状況にもなると今枝の真っ直ぐさが僕には段々鬱陶しくなっていったのである。
衝突が増え、とうとう僕はバンド関係の連絡を取れなくなってしまっていた。
いわゆる"鬱"の症状であったんだと今になると思う。
ライブもスタジオも全部行かなかった。
携帯も毎日鳴り止まなかった。
起き上がるのも辛く、虚無感に囲まれた日々、
SNSを見たらどうやらその一週間、僕を除いたメンバーだけでライブをやったらしい。
知った様な口で心配するコメントや誹謗中傷コメントを見て酷く落胆したのを覚えている。
一週間も経った頃
何とか食い繋ぐ為に仕事だけでもしなくてはと久しぶりに元々出勤予定だったバイトに行く。
が、バイト先に着く手前で見覚えのある顔があった。
僕を探しにきたのであろう。
今枝、であった。
今枝「久しぶり、だな。」
皇「...」
今枝「なんか言ってくれよ。別に怒るつもりで来てるわけじゃないんだ。」
皇「...ごめん...!!!!」
そこからの記憶はあまりない。
おそらく自身の責任もメンバーの優しさも受け止めきれず、
気が付けば全てから逃げる様に全力で走っていたんだと思う。
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時は過ぎ、半年の時が流れた。
僕はというと前々から連絡を取り合っていた如何にも"ダメ男好き"な子の家に居候をしては、未だ働かず引き篭もっている。
今枝達のバンドはその後間も無く空中分解、最後にパッとしないMVを上げて解散していた。
如何にも第三者の様な立ち振る舞いで大して良くもない映像を見ながら僕の少し遅れた青春が、終わった事を悟った。
そうして、今に至るのである。
どう?中々のクズっぷりでしょう。
いやー、こんなんになるとは思ってなかったんだけどね!
まあ、来世に期待って事で適当に生きようかなってのが今の所。
うっひょー!人生たのぴー!!
と、強がってでもいないとやってられん。
皇「飯でも買いにいくか」
養ってくれてる自称彼女さんが置いていってくれている諭吉兄さんを握り締め、コンビニに向かおうとドアを開けた瞬間。
辺りは突如閃光に包まれた.......
雷予報は無かった。
ミサイル?隕石?
思考を張り巡らせ考えていたが
この街の誰もが理解をするその前に
この街は一瞬で壊滅を迎えた.....。
続く....