大切な事
「エール、もうちょい下ー」
「はーい」
この日、俺とエールは依頼を受けていた。内容は
「兄ちゃんら!そこ終わったら最後はあっちのグレゴリーさんちの壁を頼まあ!」
「「りょーかいっす」」
ルーメンの住宅地で壁の補修をしていた。ルーメンはアルバトロス連邦共和国の要所なだけあって住民も多い、その為冒険者ギルドにはこういった住民からの依頼も入る。
しかし、嘆かわしい事に冒険者には拝金主義の者が多く割合の良い魔物討伐など割の良い依頼に殺到してしまうのが現状でこのような依頼は後回しにされ放置されてしまう。
「こっちは終わりだエール。最後はあっちの家に頼む」
「はーい」
そんな俺達の様子を見ていた住民のおっちゃん達は
「おい、ヒビ割れてた所どこだ?綺麗になってわかんねぇぞ?」
「あのお兄さん、冒険者だよね?」
「ここいらの職人より上手いんじゃないのか?」
おいおい、元土方舐めんなって。この位の補修作業俺には朝飯前だ!ヒビ割れてた部分に補修材のモルタル塗ってから魔法で乾燥させて二重にしその上で仕上げする位の時間もあれば手間も加える。
魔法ホントに便利だな。すぐモルタル乾くしいい魔法の訓練になるし一石二鳥だ。
そしてそこにエールがいれば高所の作業も余裕余裕。今回は両手使うから何時もの服の上にフルハーネスを装備してハーネスを掴んで貰って飛んでもらっている。なおこの世界にフルハーネスなんて物はないから似た素材で伸縮性の無い物を使用し魔法で作った。ちなみに俺の好みで水平型のフルハーネス、V字は食い込むから嫌なんだよな。そうして最後のお宅へ
「わー、くっきりヒビ入ってるねー」
「これくらいなら問題ない、グレゴリーさん今から始めますねー」
左手に持ってるコテ板に事前に用意しといたモルタルをアイテムボックスからコテ板に乗せコテですくう。
補修と一言で言っても色々あるがヒビを検分したところ大体が構造クラックに当たる為今回は魔法でヒビ内の水分を乾燥させてヒビを埋めるように上からモルタルを塗っていく。構造クラックは放置すると雨漏り等の問題を起こす為放置はいけないんだ。一通り塗ると俺は魔法で乾燥させその上からまたモルタルを塗り丁寧に仕上げる。再度魔法で乾燥させるとコテ板のモルタルをアイテムボックスに戻し
「仕上げと」
コテ板に塗料を乗せ乾燥させたモルタルの上に外壁と同じ色の塗料を塗る。塗装は見た目はもちろんだが一種の防水コーティング代わりになるから手を尽くして損はない。こうして依頼を終え依頼人にサインを貰うとギルドへと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねぇウィンー」
「どしたー?」
「なんでルーメンの中の依頼しか受けてないの?」
ギルドから出て商業区にある飯屋を物色していた俺にエールが尋ねた。昨日から俺達はルーメンの街での依頼しか受けていないから不思議に思ったのだろう。
登録試験での結果は歴代踏破タイムを更新、手加減して貰ったとはいえシルバークラスの冒険者と一騎討ちでの勝利、そしてアイテムボックス等の希少な魔法を使うことやハーピーとコンビを組む珍しさからか何故か注目を集めてしまっている俺達。アリッサさんからも様々な仕事を勧められているが俺は今一度基本に還ることにした。
「それはな、冒険者ってのは信用が大切だからだよ」
「しんよー?」
コテンと首を傾げるエール。子供みたいな仕草の一つ一つを見てやっぱりカワイイなと思いながらも俺はエールに説明する。
「俺は冒険者ってのは一種の職人のようだと思ってるんだ。信用ってのは一朝一夕で得られるものじゃない、一日一日の積み重ねで得るものなんだ」
これは前世での経験で職人というのは腕も必要だが一番大切なのは信用だと親方達から教わった。
例えどんなに素晴らしい腕や技術を持っていたとしても信用の無い職人の元には仕事はやってこないと親方は自身の仲間を例に出して教えてくれた。その職人は大変素晴らしい職人なのだが昔気質が過ぎるところがあり仲間内からすればよくあることで信用もあったが依頼者からはそれが受け入れられず仕事が来ないのを見ていたと俺達若手に教えてくれた。
冒険者も同じだ。冒険者は冒険者ギルドという組織が信用されているから冒険者に依頼が来ているだけでありその立場を勘違いをしていけない。その時点でその冒険者自体の信用は無く特に余所者の俺達の信用など皆無に等しいのだ。
だからこそ、ルーメンの街に滞在する以上街に住む人々とは友好な関係を築く事が必要となりその得た人脈というものは今後冒険者として生きていく上で立派な武器となる。
「暫くはルーメンに滞在してギルドから依頼を受けるんだ。ならルーメンにいる間街の人と仲良くするのに越した事はないだろ」
最後にティフォーネ様みたいにと付け加えた。その例えがわかり易かったのかエールは直ぐに納得してくれて笑顔を向けてくれた。
「成程ー、確かに出来るなら仲良くしたいよねー、さっすがウィン!」
「だろー?」
「やっぱりウィンに任せてよかった!」
「ちったあ考えてくれ頼むから…」
大袈裟に肩を竦めて見せるがそこにエールがおらず、いつの間にか飯屋の客引きに捕まってるのを見て
(うん、俺がしっかりしなきゃだめだな)
改めて感じエールのいる飯屋に足を向けるのだった。




