祝、合格
「そりゃあ思わないよな。刃が分裂して飛んでくるなんてよ」
上に跳ね上げた剣に魔力を込めるとワイヤーが縮み分裂した刃がカシャンカシャンと音を立てて収まると再び剣の状態に戻る俺の剣。
いやぁこういうのや魔法を使うと本当にファンタジーな世界に来たんだなと実感する。でも
「ちょっとルルカ!大丈夫!?」
いっけね、やりすぎちった。流石に剣の刀身とは逆の斬れない方に持ち替えて鞭みたいに打っただけだから大丈夫だと思うが俺も心配になり駆け寄ろうとした時
「ウィーン!」
「おうふ!」
見守っていたエールに抱き締められた。
「もう!無茶しちゃだめだよ!こんな怪我して!」
「悪い悪い、つい…」
「もー、しょうがないんだから。うごかないでね『ウィンドヒール』」
エールに抱き締められながら起用に回復魔法を掛けてくれる。傷が癒え体力が満ちる感覚と抱き締められて羽根に覆われて、エールに包まれる感覚はヤバかった。
言葉に出来ないし絶対みっともない顔してたんじゃねぇかな。それは案の定
「んふふー、ウィン気持ちいい?」
俺の表情を見て満足そうに笑い不意に頭を撫でるエール。完璧に弟扱いである。いや間違っちゃあないけどハズい。そんなで完全に回復した時に向こうも気が付いたようで騒がしくなり
「ルルカ!待って!」
そんな言葉が聞こえ俺とエールが見やるとあの露出狂が大股で歩く姿にずんずんと効果音が似合いつい笑っちまったよ。開口一番
「ちょっと!何よあの剣!?あの剣はなんなの!?」
俺に詰め寄ろうとしたがそこにエールがサッと羽根で遮り身体を入れると敵意満点の表情であの露出狂を睨む。エールの剣呑とした態度に吹っ飛ばされたばかりの露出狂は怯むと後を追い掛けて来た3人が宥めること10分。
「ウィントス君、エールさん、ルルカがごめんなさいね、代わりに謝罪させて頂きます」
頭を下げるシルトさん。だがこっちも煽るような発言をしたのもありそれに対して俺も謝罪を入れさせて貰った。互いに頭を下げた所でコリンさんから質問が
「ところでウィントス君、貴方のその剣貴方の魔力が多量に流れているみたいだけどその剣は一体…?」
この剣の事を聞かれた。まぁ聞かれたら答えるつもりでいたから正直に話す事にする。
「この剣はヴァトラス山の魔力溜まりで見つけました」
その後も俺はこの剣について分かる範囲で説明する。
この剣はエールと出会う前にヴァトラス山を登っていた時に中腹にあった魔力溜まりに刺さっているのを見つけた。ある程度魔力を流していないと剣の状態と強度を維持出来ずさっきみたいな鞭みたいな形状になってしまう事を説明。コリンさんが察知した魔力の流れは剣の形状を保つ為に剣に流していた俺の魔力なのも加えて説明した。
ちなみに俺があの盗賊達を始末しようとした時に魔力が無くなって道連れされかけたのはこの剣に流す魔力をコントロールせず適当に流していたのが原因でありその後ルーメンに行き着くまでの間ずっとエールやティフォーネ様達に魔力の制御方法を教わって制御している。
「変わってますよね、この剣。魔力を強く流せばその分強度付きますし魔力を切るとさっきみたいな鞭になるんですから」
剣を手にとって実際にやってみる。魔力を込めて剣を振り途中で魔力を抜くと瞬く間に刃が分裂し鞭となる。鞭状態は剣や槍などの近接武器よりリーチが長く鞭より固い。少しこの剣を見せるとエールが
「ねえねえ、それよりウィンが勝ったから私達合格でしょ?」
確信を突く質問を投げる。するとコリンさんは頷き
「ええ、貴方達は合格ですよ。おめでとう」
「よっしゃあ!」
「やったねウィン!」
俺とエールは抱き合って喜んだ。
その後俺達は冒険者ギルドへ戻り採取した大水晶の欠片を受付のお姉さんアリッサさんにご迷惑をお掛けしたお詫びを言いつつ渡す。
「本当ですよ〜、でもウィントスさんとエールさんには言ってなかったから仕方ありませんが」
と、言いつつ渡した大水晶の欠片を手に取ると何かに欠片をはめ込む、そしてそれを俺とエールに手渡した。
「ルーメンでの冒険者章は採取して頂いた大水晶の欠片を使って作る事が習わしとなっていましてこれがお二人の冒険者章です。おめでとうございます」
大水晶の欠片が静かな光を称える冒険者章を頂いた俺達は晴れて冒険者になることが出来た。
さあ、明日からが俺の冒険者人生の始まりだ!