ウィントスの剣
「なっ、速…!」
ルルカは驚愕した。
先程までずけずけと自分に物を言っていた新人冒険者の少年。
先程も自分が振るった剣に対して素手で受け止めていたのは驚いたがともかく反応速度が優れていると思った矢先のこの素早い懐の入り方に更に驚く。
ルルカ目線完璧で一縷の無駄の無い懐の取り方だ。真似して出来るものではなく単にスピードが速いのでもない。ウィントスの場合それは技術だと分かった。
懐に入ったと同時に横薙に振るわれたウィントスの剣を躱す事が出来ないと判断しぎりぎりのタイミングで受け止めたルルカ。しかし
「…!?思ってた以上に重い…!」
見た目は中性的で年の割に背が低く細身の少年。しかしその細身に似合わないパワーにまた驚きを隠せない。このままでは弾き飛ばされると判断したルルカは強引に受け流すと飛び退き態勢を整える。
「ちょっと、女に不意打ちなんて見かけによらず酷いのね」
「最初に不意打ちしたのはそちらですからやっていいものとばかり思ってましたよ。それに冒険者に性別はありませんから」
「はっ!いいわねぇ嫌いじゃないわ!」
この場に来ても減らず口が減らないウィントスにルルカは喜々とした表情で斬り掛かる。対するウィントスもルルカの攻撃に対応し2人の間には鋭い剣閃が走り一進一退の攻防を繰り広げる。
「ウィン頑張れー!」
相棒を応援するエールの横でコリン達は
「すごいわねあのウィントスって子、ルルカと互角なんて」
「ちょっとちょっとコリン関心してる場合じゃないわよ!」
「シルバー級の冒険者のルルカと互角なんて、あの子本当に新人なの?」
騎士鎧を身に纏う女性シルトが訝しげにルルカの攻撃を捌くウィントスを見る。
ぶっちゃけた所ルルカ含め彼女達からしてみればウィントスとエールは合格である。
迅速な行動。
ダンジョン探索の最適解。
戦闘の手際。
最適な採取。
全てにおいて最良の成果を出しておりこの手合わせもルルカの八つ当たり半分と単にウィントスの実力を見たいという好奇心からである。冒険者になりたいと言う者は大体が一攫千金を夢見る者。と言えば聞こえはいいがそれは端的に言えば強欲な者が多く実力と野心が釣り合わない残念な者が多いのが現状だ。
その中でも彼女達から見てウィントスは文句無し、目の前の欲に走らず自身を律しており冒険者というものを理解しているようだと分かる。ただ中性的な見かけによらず思ったより口が悪くずけずけと物を言うのは意外だった。そんな2人の戦いを見ながら魔導師のコリンは疑問に思っていることが
「それに」
「どうしたのコリン?」
「それにあのウィントスって子の剣、やけに魔力が…」
コリンが気になっていたのはウィントスの持つ剣だ。
一見ファルシオンのような片刃だがロングソードのような細身の少し変わった風貌の剣だがコリンはこの剣に多量の魔力が流れているを感じ不審に思っていた。
「ちっ…!やるわね!なら…!」
ウィントスと斬り合っていたルルカは距離を取ると
「ウォーターエッジ!」
間髪入れず魔法を追撃しようとしたウィントスに放つ。ウィントスはぎりぎりで躱すが直後にルルカは距離を詰め剣を振るい連撃を仕掛ける。
ウィントスは避けきれず斬りつけられる
「くう…!やる…!」
袈裟に斬られたの始め身体のあちらこちらで出血する
「ウィン!」
ウィントスが斬られた事で悲鳴に近い声を上げるエール。しかし当のウィントスは
「大丈夫だよエール。芯は外したからまだ行ける」
「本当よ、あの状況で良く躱すわ…一体どんな反射神経してるのよ」
呆れながらもルルカはウィントスの実力を認めていた。
何処の流派かは知らないが明らかに教わったと思われる身のこなしは同じ剣士から見れば一目瞭然。それに加えあのようなスペースのない状況で最小限の怪我で済ます動きはまだまだ荒いが今後が楽しみな人間だ。
ルルカはウィントスの健闘を讃え剣を降ろそうとしたが
「でも、魔法使えるのは貴女だけじゃないぞ」
ウィントスが風魔法を詠唱すると不意に吹き飛ばされるかと錯覚する凄まじい突風を放つ
「きゃあ!?」
「な、なに!?」
「げ、ゲイルガスト!?」
いきなりの事で吹き飛ばされそうになるコリン達、そして
「くっ…!」
ぎりぎりで反応したルルカは何とかその場で踏ん張り吹き飛ばされるのを堪えた。
しかしそれは間違いだった。
「もらい!」
ウィントスの声が聞こえたと同時にルルカの腹部に強い衝撃が走りあっと言う間に吹き飛ばされ洞窟の壁に激突した。
余りの衝撃に気を手放すルルカが最後に見たのは分裂した刃が一本のワイヤーに繋がれ飛んで来たウィントスの剣だった。