水晶の洞窟
冒険者になるべく登録試験に挑む俺達は空から水晶の洞窟へ向かっていた。
「なんだかこうしてエールに飛んで貰うのも馴れてきたなぁ」
「私もウィン掴んで飛ぶの馴れたよー」
ルーメンが近い為か空には魔物は見当たらない快適な空でついつい軽口を叩くぐらいだ。しかも初速からぐんぐん伸びるエールのスピードならあっと言う間だしそもそも
「水晶の洞窟ってあそこだよね?」
「ああ、来るときに見た冒険者ギルドの看板があったとこだよ」
俺達は今日の今日水晶の洞窟の上を通って来たんだからな。その時は冒険者ギルドの看板を見つけてなんだこことは思ったがさっきの地図を見て俺とエールは察しが付いた。
冒険者ギルドが管理しているダンジョンにはギルドの看板を配置しているって話しは本当だったようだ。
それにエールは字書けないが文字や地図は読めるから。
そうしているとすぐに目的地の水晶の洞窟(冒険者ギルド管理)が見えた。冒険者ギルドの看板がありその近くには2人程の冒険者らしき男女がいるのを見つけ
「あそこだ、エール放ってくれ」
「はーい」
俺がそう言うとエールはスピードを緩めて徐々に高度を下げ、すると
「とうかー」
空中でパッと鉤爪を離し俺は投下される。
普通空中で放り出されたら頭には死が過るだろう。しかし俺は思わない。
一度転落死を経験している俺はどうなれば死ぬのか、どう落ちてしまうと危ないのかを風に乗って移動してた時に検証は済んでいる。
俺は2人の目の前に落ちるように落下コースを調整して
「ほいっと」
風の魔法を自分の真下に発動させて擬似的な上昇気流を作って落下スピードを相殺させる。後は態勢を整えて着地するだけ。簡単だろ?急に空から降って来た俺に気付き
「おわっと!」
「な、なになに!?」
何事かと慌てふためいてしまった。そりゃいきなり空から人が降って来たらビビるか。俺に続きエールもバッサバッサと音を立てて着陸し
「驚かせてすいません。俺達冒険者ギルドで登録試験を受講したものです」
そう言って受付のお姉さんから受け取った地図を見せる。2人は察して
「ああ、挑戦に来た冒険者志望者か」
「そうでーす」
「ハーピーとだなんて変わったコンビね。ここが水晶の洞窟よ頑張ってね」
「ちょっと待ってくれ今サインするから」
そう言うとお兄さんの方が地図にサラサラと書き記す。この冒険者っぽい2人、ルイジさんとリンジーさんは冒険者ギルド所属の冒険者らしくこうして挑戦に来る者の管理をしているのだそう。ルイジさんにサインを加えられたさっきの地図を受け取り
「中は魔物もいる。くれぐれも無理しないように」
「わかりました」
そうして俺達は中へと歩を進める。
水晶の洞窟、中は
「なんだか明るいね。洞窟って聞いてたからもっと暗いと思っちゃった」
意外と明るかった。その理由は洞窟の至る所に埋まっている水晶だ。どうやらこの水晶魔力を含んでいるみたいで水晶から零れ落ちている魔力が淡い光を湛え洞窟内を明るく照らしていた。
「いや嬉しい誤算だよ。中が明るいなら松明や魔法を使う必要がないからな」
魔法やアイテムを使わないって事は温存出来るってことだ
「まねー。私も暗いとこニガテだから助かっちゃった」
「ハーピーは鳥目だからな、仕方ねぇよ」
そう駄弁りながら先へ進むと何やら気配を感じたと思った時
(コノサキマモノ)
風声からの警告だ。俺とエールはすぐにおくちチャックし音を立てないように物陰に身を隠して先を伺う。
「いたいたスライムだ。それとありゃなんだ?」
俺が見つけたのは一見濁った緑色の水溜りのようだが真ん中に核見たいなもんがある魔物スライムだ。スライムは中には強力な酸性や毒性を持っているものもおりそれは色によって見分けられる。俺が見つけた緑色のスライムは目立った毒性を持っていないグリーンスライムというポピュラーなスライムだ。それと気になったのは上にいた鱗みたいなのがあるコウモリだ。一見ジャイアントバットっていうコウモリの魔物みたいだがちょっと違う。でもそれは
「あれはスケイルバットだねー。アイツらは耳良いから多分気付かれたよ」
エールが教えてくれた。明るい洞窟を好んで住み着く魔物で目が普通のコウモリより退化している分耳が良いらしい。そしてエールの言う通りスケイルバットが「キイキイ!」と騒ぎ始めると他のスケイルバットや地面にいたスライム達が一斉に反応した。
「見つかったな。どう仕掛けるか」
戦闘はやぶさかではないが如何せん数が多い。いっそのこと魔法でも使うかとエールに言ったら
「なら私に任せて!」
そう言うとエールは魔物達に飛び出すと
「それっ!」
魔物達に羽撃き強い風を起こすとなんと風と同時に放たれた羽が魔力を帯び魔物達に向かいまるで投げナイフのように鋭く放たれた。羽は魔物達、特に空中にいたスケイルバット達を撃ち落としスライムにも羽が突き刺さる。スライム達が怯んだのを見て
「悪いな、恨まないでくれよ」
俺は腰に下げてある幅広の剣を抜き飛び出すように駆け抜けスライムの核を砕きスライム達にトドメを刺した。俺がスライムを処理してる間にエールは鞭を取り出すとスケイルバットに向かって鞭を振るいトドメを刺す。全部終わり
「サンキューエール。凄かったなあの突風技」
「んふふー、『フェザーショット』って言って私達ハーピーの得意技なんだー。羽に風魔法を込めてやると矢変わりに使えるんだよー」
ふんす鼻を鳴らし説明してくれた。その後も俺達は
(ミギダヨ)
風声の案内のもと時折魔物を退けながら奥へと進んで行くと開けた場所に出る。すると
「あれが大水晶か」
「きれー」
お目当ての大水晶を見つけた。周囲に魔物が潜んでない事となにか罠がない事を確認し俺達は大水晶の側まで近付き大水晶を見上げ
「これはまたなんと素晴らしい光景だろう…」
俺は目の前の光景に感嘆の声を上げ見入った。
魔力を含み力強く光を湛える大水晶、そして天井を始め壁に埋まっている水晶から溢れる淡い光。
壮観とはこの事だろう。ヴァトラス山のハーピー達の集落から見た光景も素晴らしかったがこの大水晶の光景もまた素晴らしい。それにはエールも共感してくれたのかキラキラした目で魅入る。暫し2人で素晴らしい光景を堪能したら本題へ
「でも私達、なんか削るもの持って来てたっけ?」
「案ずるな、しっかりあるよ」
そう言って俺は何もない所からピッケルを取り出した。
「すごーい!どうやったのウィン!」
「これはアイテムボックスっていう俺が考えた魔法だ。俺が作った専用の空間にアイテムを置いとける魔法で必要であればこうして取り出す事が出来る魔法だ」
そうして俺はピッケルで2人分の大水晶の欠片を採取する。
冒険者において依頼の際は必要以上の採取はしてはいけない。冒険者の採取依頼というのはその場所の環境保全の面もあり取り尽くすと言う行為は略奪と見なされ刑罰に課せられる。
なんでもやり過ぎはいけないのだ。
そうして大水晶の欠片を採取しピッケルをアイテムボックスにしまい
「よし、じゃあ洞窟から出るか」
「はーい!」
そうして俺達が来た道を戻ろうとした時
「ちょっと待ったぁ!」
何者かが叫ぶ声が俺達が通って来た道の奥から聞こえ俺とエールは身構えるのだった。