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プロローグ 前編




 ゴトゴトと音を立てて街道を行く馬車が一両。その馬車には国章と家紋のような物が掲げられており商人や冒険者が所持している馬車では無く国に仕える貴族のもののようだ。


「後どのくらいで屋敷に到着する?」


「後20分程です」


 馬車の来賓などを乗せるような装飾が施された後ろの荷台から一人の騎士が御者に尋ねる。手短に返された騎士は荷台に戻り


「後20分程だそうですフレイ団長」


「そうか」


 手短に返したのはフレイ団長と呼ばれた女騎士フレイ・クラウド。レーマン家に仕える女騎士でありマンハイム王国の騎士である。その凛とした声に相応しい美しい容姿を備え燃えるような明るい赤い髪を一纏めにした女性で剣の腕は一流、実力だけで騎士団長に就いた人間で部下からの信頼もあり人望にも厚い人物だ。

 部下の騎士から報告を受けたフレイは対面に座る暗い茶髪の少年に優しく声をかける。


「後20分程だそうです。それまでは窮屈ですがもうしばしご容赦を」


「……」


 答えない、その少年の無視をするような態度にフレイの隣に座っていたもう一人の騎士が少し苛ついたような声を上げる。


「少年、団長に返事はないのか?」


「やめなさいガラッゾ」


 ガラッゾと呼ばれた騎士を諌めるフレイ。少し納得がいかないようでもう一人の騎士と入れ替わるように荷台から出ていく。入った来た騎士はフレイと小さな声で話しをし始める。


「彼、ずっとあんなんですか?」


「ええ」


「副団長が苛つくのも分かりますよ。本当に」


「待ちなさいゴルバ。それ以上はいけないわ」


 失言しそうになったもう一人の騎士ゴルバに注意をするフレイ。しかしゴルバの言葉は事実でもある。馬車に乗ってから凡そ3時間、目の前の少年はずっと瞑想するかのように目を閉じて騎士達が話しかけても無反応で座っている。ゴルバは少し気味悪がるようだがフレイは


「いきなり父親と言われて困惑しているのでしょう。一人で考えたいのではないのかしら?」


 と、取り敢えずはそれでゴルバは溜息一つ付いて席に着く。しかしそれとは裏腹にフレイは気にしておらず少年を見てそれまでの事、目の前の少年との出会いを振り返る。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 時は2日前、マンハイム王国のレーマン家が統治する辺境の田舎街アーメント。そこにフレイとガラッゾは主であるレーマン侯爵にある密命を受けて町長の元へと訪れていた。


「急な訪問、誠に申し訳ありません町長殿」


「こ、これはフレイ殿!レーマン侯爵家の騎士殿が私めに何を…」


「詳しくは話す事が出来ません。しかしこの肖像画の女性に見覚えはありませんか?」


 そう言ってフレイはガラッゾから肖像画を受け取り町長に見せる。町長は暫し見ると


「…エステル?」


「見覚えがあるんですね!」

「やりましたね団長!これでお館様に吉報が!」

「ええ!」


 喜ぶ騎士達を見て申し訳なさそうに表情を落とす町長。それに気が付いたフレイは聞かないわけにはいかなかった。


「町長殿?どうなさいましたか?」


 フレイに不安が募る。その様子はガラッゾにも伝わり険悪な空気になった時、町長から出た言葉に衝撃を受けた。


「大変申し訳ないのですが、エステルは死にました…」


「「!?」」


 町長の話しはこうだ。3週間前このアーメントの街で流行病が起きて街には十数人の死者が出たという。そして


「エステル殿もその一人…」


「はい、その通りで御座います…」


 暫しの沈黙、沈黙を破ったのは頭を抱えて落胆していたガラッゾの言葉だった。


「なんて事だ、お館様に何と報告すれば…」


「あの、どうしてレーマン侯爵はエステルを探されていたのですか?」


「…この話しは他言無用でお願いします」


 フレイは町長に事情を話し始める。

 それは16年前の事でレーマン侯爵は屋敷に仕えていた一人のメイドと恋仲だったらしくそれを知った前当主がそのメイドを放逐したと言う事だった。当時は前当主の妨害があり探す事は叶わなかったそうでレーマン侯爵が当主となった4年前からずっとそのメイド、エステルを探していたという、一連の話しを聞いて町長は


「ちょっと待ってください、ならばニールは…」


「ニール?」

「誰だそいつは?」


「エステルの息子です!」


「息子!?」

「子供がいたんですか!?」


 町長によるとエステルという女性が街にやってきた15年前赤子を抱えていたとの事でずっと二人で暮らしていたとの話しだった。その中で


「黒みかかった茶色い髪…」


 髪の色に反応したフレイ。


 暗い茶髪なら侯爵と当てはまると。


 茶色い髪の人間など国内外多くいるが多くは明るい茶色であり暗い茶髪は珍しいもの。町長によるとエステルは薄い紫色の髪との事で間違いなく父親の遺伝だろうとのこと、


 …確かめる必要がある。そしてそのニールはというと


「ニールに会われるのなら早く出向いた方がよいでしょう。ニールは冒険者になると言ってエステルが亡くなる前から準備しているようでしたから」


 その言葉を受けてフレイ達は町長から聞いた旧エステル宅を訪問した。

 今年15になったニールは以前から冒険者になりたいと話していたらしくそれに合わせて準備をしていたそうだ。


 フレイは冒険者の事を快く思っていない。冒険者と聞こえこそいいが金の為なら汚い依頼も平気で受けるならず者というのがフレイの認識だ。


 もしも本当にニールがレーマン侯爵の息子であるなら絶対に冒険者になんぞにさせてはならない。レーマン侯爵の息子ならば騎士が相応しいのではないかとそんな事を考えているうちにフレイ達は旧エステル宅に辿り着いた。

 町長の言葉通り家は引き払われていてもぬけの殻だったが踏み入れた裏庭で焚き火をしている少年の後ろ姿を見つけた。それがニールだった。


 幼さが残る美形な容姿の明るい緑色の瞳が印象的な少年、それがフレイのニールに対する第一印象だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「フレイ団長、着きました」


 ゴルバから声をかけられ正気に戻ったフレイ。どうやら随分と思いふけていたようで、目の前に座っていたニールはもうそこに居なかった。


「すまない、ニール殿は?」


「ガラッゾ副団長が連れて行きましたよ。自分達も行きましょう。お館様がお待ちです」


「分かった」


 気を引き締め直してフレイは席を立ちガラッゾ達に追い付くとレーマン侯爵が待つ屋敷へと入る。


「フレイ団長。ガラッゾ副団長から話しは伺っております。お館様がお待ちで御座います」


「分かった」


 どうやら先にガラッゾが使用人達に説明をしていたようですんなりとレーマン侯爵が待つ執務室へと案内されると扉が開かれ中へと招かれる。


「レーマン侯爵殿。エステル殿のご子息を連れて参りました」

「そうか!」


 中にいたのは勇ましい壮年の貴族の男性、リックス・レーマン侯爵だ。先日の時点で事情はレーマン侯爵に伝えてはいた。エステルの訃報には嘆き悲しまれていたらしいが息子がいると知ると是非にと事だった。レーマン侯爵はニールを一目見ると感嘆の表情を浮かべた


「おおぉ…!間違いない…!その明るい緑色の瞳は、エステルのものと瓜二つ!それにエステルの面影を残している顔は…!初めまして我が息子よ。私の名前はリックス・レーマン。君の父親だ」 


 生き別れた親子の初めての出会い。

 目に涙を浮かべて感激するレーマン侯爵を見て自然と目頭が熱くなるフレイ達。


「息子よ、私はエステルの面影を残す君に会えて嬉しい。今日はこの屋敷で出会いを祝そうではないか」


 歓喜混じりに語りかけるレーマン侯爵。しかしニールから出た言葉は




「寝言は寝て言えクソ親父!!」




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