異世界に到着!
ゲートを抜けると、そこはいかにも、といった街並みが広がっていた。中世ヨーロッパを感じさせるお店では、武器や防具はもちろんのこと、薬草や、私にはなんのために使うのかさっぱりな一見ガラクタの様なものも売られていた。
人々は色とりどりの髪を持ち、全員が地球で言うコスプレのような格好をして街を歩いたり、商売をしたりと街をにぎわせていた。只のTシャツに黒髪の私はとてつもなく浮いてしまっている、そう思ったところで気づいたのだが、どうやら私の姿形はこの世界に来て変わっているらしい。ピンク色の髪を持ち、服装もこの世界で着ていても差し支えないようなものに変わっていた。
これには流石の私も驚いて、近くにあった店の窓に自分を写してみた。そこに現れたのは、私が毎日一度は顔を合わせていた人物などではなかった。肌質や目の色、形、口元や鼻筋など、とにかく全てが違う、地球で生きていたのとは違う、全く新しい私だった。そして、これは自分で言うのも恥ずかしい話なのだが、彼女は美少女なのだ。生前も、別にブサイクだとは思わなかったけど、それとは比にならないくらい綺麗になっている。これは女神様の粋な計らいなのだろうか。とにかくありがとう、女神様。
さて、無事に転生することは出来たらしいが、一体これからどうすればいいのだろうか。女神とやらも、せめてこの世界の地図とかをくれれば……ああ、そういえば彼女から貰った攻略本があったんだった。本の1ページ目を捲ると何やら数枚の紙が挟まっていた。
いくつかは入学許可証と入寮許可証と書かれた紙には学校名やら日付けやらがいろいろ書かれたものや、入学式の日程など学校関連の資料だった。そしてその中に紛れ込んでいた1枚は女神からの手紙らしかった。どうやら先程の紙に書かれた学校が私の行くところらしい。そこでは学生寮があり、私はそこで暮らすことになること、そして私の名前は変わらず、漢字の名前をそのままカタカナにしてあるというような初期設定じみたことが色々書かれていた。
そして最後の紙、それはこの世界の地図であった。学校の場所は簡単に見つけることができたのだが、今、自分がどこにいるかだなんて皆目見当もつかない。コミュニケーション能力が低い私だが、葛藤の末、この街の人に声を掛けて聞いてみることにした。
ちょうどこの場所は広場のようになっていて、人通りも多かった。中心に噴水、その周りに円形にお店が建てられ、所々緑なども垣間見える。噴水の傍にはベンチなどもあり、中には1人で座って休憩している人もいたので、特に優しそうな人を選んで話しかけた。
「あの……すみません」
「お、どうしたんだい嬢ちゃん」
褐色の肌を持った、髪のないおじさんは、おろおろしている私にも元気な口調で返してくれた。
「あ、あの……ここ、ここに行きたいんですけど……」
私は持っている地図を指さした。おじさんはバリエンテの生徒なのかい、といたく感心した風に言った。なんだかよく分からないけど、そのバリエンテ、という学校はどうも凄いところらしい。
「そうだなぁ、しかしこの街からは遠いぞ嬢ちゃん。馬車で7日ってとこかなあ。あそこで馬車が……」
「7日!?」
予想外の答えに私は驚きの色を隠せなかった。7日?どうして女神はこんな目的地とはかけ離れた街に送り飛ばしたのだろうか。急いで先程の資料を見返してみる。入学式の日付は……4月9日。
「あの……今日って何日ですか……?」
私は頼むから最悪の答えだけは返さなくてくれと祈りながら、またおじさんに質問をした。
「今日は……4月8日だな」
その瞬間、私は膝から崩れ落ちた。馬車で1週間かかるのに、どう足掻いてもあと半日で着くわけが無い。
入学式の欠席、それはぼっち生活の第一歩とも言える。まして1週間も経てばもう既に友達の輪というものが形成され、その輪に滑り込む余地など、どこにも存在しなくなっているのだ。これは例え異世界だろうが何だろうが関係なく起こる事象であろう。
「うぅ……私の学校生活……」
私は地に手をつけ、ぐすぐすと泣き始めてしまった。おじさんは終始困惑しながらも、優しく大丈夫だ、など見ず知らずの、しかも突然道を尋ねてきたと思えば急に泣き出しもした、いわば不審者のような私をなぐさめてくれた。
それから少し経ち、私もいつもの調子を取り戻してきていた、そんな時だった。
「……お、リリアじゃねえか!」
おじさんは嬉しそうな顔でそのリリア、と呼ばれる女性に声を掛けた。
これまた綺麗な顔立ちをしている少女だ。肩辺りまで伸ばされた金髪は彼女の美貌を崩さんと一糸の乱れもなく整っていた。肌は白く、綺麗な水色の瞳は真っ直ぐとこちらを見ている。
「こんにちはトニーさん」
彼女は微笑みなが会釈をした。
「まだ街からでてなかったのか。暫く会えなくなるし、最後に顔が見れて嬉しいよ」
トニーと呼ばれた先程のおじさんは、目に少し涙を浮かべ、少し寂しそうな口調だった。
「泣かないでください、トニーさん。何もこの街に帰って来ないわけじゃないんですから……ところで、そちらのお方は……?」
体の向きはそのまま、視線だけを動かして彼女はトニーに尋ねた。
「あぁ、彼女はバリエンテの生徒さんらしいんだが、入学式に間に合いわなくて困ってるんだ」
「まぁ、バリエンテ?私もそこの生徒なんです!これから数年の間、宜しくお願い致しますね」
彼女は先程の笑顔と共に私にも会釈してくれた。私は思ってもみなかったタイミングでの出会いにおどおどしながらもなんとかよろしくと口に出すことは出来た。
「にしてもリリア、お前さんはまだここにいて大丈夫なのか?もう入学まで一日もないそうだが……」
「ええ、転送石がありますので」
「転送石?」
聞き慣れない単語に私が思わず聞き返すと、彼女は持っていた鞄から水色の結晶の様なものを取り出し見せてくれた。
「これのことです。これを使えば自分が思うところに自由に移動することができるんです!……あれ?そういえばバリエンテの新入生には全員配られているはずなんですけど……」
なるほど、便利なものだ。しかしそんなもの、女神の手紙にも書いてなければ、あの時に渡されもしなかった。
「いや……ないんだけど……」
「わかりました!大丈夫です!転送石は自分自身だけではなく、体が触れ合っている相手も一緒に目的地に飛ばすことも出来るので……。よければ一緒に行きませんか?」
「ええ!?いいの!?」
「勿論ですよ!私と貴方は同級生であり、良きライバルであり、そしてお友達なのですからね」
そう言うと彼女はニッコリと笑った。あぁ、この子はなんと素晴らしい女の子なのだろう。先程あった女神とやらよりも数百倍女神らしい。
「ありがとう!!是非連れてってください!!」
わたしも満面の笑みを作りながら彼女の手を取りお礼を言った。
入学式遅刻が確定した時はどうなる事かと思ったけれど、思わぬ形で友達も出来たし、案外上手く学校生活を過ごすことが出来そうで私は安堵したのだった。






