異世界転生!?(ついに来た、私の時代!)
人生百年時代を迎えたらしいが、私の人生はたった十八年ほどで幕を閉じた。アンケートで「あなたの人生は充実していましたか?」と聞かれたら、少し考えて結局「どちらでもない」を選択してしまうような、面白みはないけど、別に後悔するほどでもない、そんな平凡な人生だった。
死ぬ直前に、自分が死んだら天国か地獄のどちらかに行くのかなぁなんて考えていたのだけど、気が付けば、周りに何もない不思議な場所に一人寝かされていた。訳も分からず起き上がり、辺りを見渡すも、ただ同じ景色が延々と続くだけで、なんだか脳がおかしくなってしまったかのような感覚を味わった。一体ここはどこなのだろうと考えていると、ふと後ろから声がした。
「やぁ、やっと目覚めたのか。調子はどうだい?」
振り向くとそこには白い服に身を包んだ女性が浮いていた。足はあるのだけど、それはどちらも地に着いてはおらず、僕の周りをゆらゆらと飛んでいる。
「……あなたは?」
「私は神様だよ」
神様を名乗った彼女はやがてふわりと私のそばに降り立ち、私の肩に手をのせたかと思えば
「さて、君は異世界で勇者になるんだ」
と、もう片方の手で親指を立てながら私に告げるのだった。
あまりにも突飛な話に暫く理解もできずに硬直していたけど、これって……、もしかして……。
「そう、異世界転生だ」
私の思っていることを察したのか彼女はそう言った。
なるほど、ついに、ついに私の時代がやってきたというわけだ!異世界転生、それは即ち、漫画やアニメのような主人公になれるということだ。とんでもない力とか、特別なチート能力で無双生活とか……、ぐふふ、これからのことを考えるだけでにやけてしまう。
「そんなににやけてどうしたんだ……?」
「いえ……なんでも……。それで、私にはどんな能力が備わってるんですか?」
いかんいかんと今できる最大限の真顔を作って聞いてみたものの、能力という単語が出たあたりからは、先ほどまでのにやけ顔になってしまっていた。
「……は?能力?」
「え?」
彼女の心から理解できないという感じのトーンは、浮足立っていた先ほどまでの私を正気に引き戻した。一体どういうことなのだろうか。
「いやいや、なんかあるでしょ?食べた敵の能力を得られるやつとか!死んだらちょっと前にタイムリープできるとか!!!ねぇ!!!」
「いや……、そんなものないが……」
「え!!??」
どうやら私の異世界無双ライフは始まりもしなかったらしい。どうにも行き場のない怒りというか、どこにも捨てることのできない悲しみの感情だけが私の心に残っていた。
「おかしいなぁ……、小説みたいに現実甘くないってことかぁ……」
「そういうのが流行っているのか?」
「えぇ、まぁ……」
それを聞いた彼女は大きなため息を一つついて、なるほどどおりで他の奴らも、と小さくつぶやき、また先ほどの調子で話し始める。
「一応先に言っとくが、異世界に転生したかといって、それだけで勇者ほどの力を手に入れるだなんて妄想はよしてくれよ。お前は今からあっちの世界に転生してまず勇者養成学校に入学して、そこで能力を磨く。最後の試験に合格すると晴れて卒業、やっと世界を救えるようにもなるんだ。ま、とりあえずこれをもってけ」
彼女はどこからか本を取り出し、あっちの世界の殆ど全てのことについて書いてある本だと、渡してくれたた。その割には本の厚さは一般的な漫画くらいしかなく、ただただ不安が募るばかりだったが、ないよりはましだろうと受け取った。彼女はとっとと旅立ってくれと言わんばかりにゲートのようなものを作って待機している。私は最後に一つだけ質問をした。
「あの……、他の人も異世界転生してるような感じでしたけど、学校にはそういう人もいるってことですか?」
「あぁ、そうだな。ま、異世界転生する奴なんてめったに来ないし、全校生徒の一パーセントくらいの人数だろうな」
ほう、なるほど……。それはつまり……!
「私は選ばれた人間、そういうことですよね!」
能力がないだなんて女神は言っているけれども、そもそもほとんどの人間がこの異世界行きの切符を手に入れることすらできないのだ。そう考えると、やはり私には女神すら知らないような隠れた凄い能力が秘められていてもおかしくはない。だとすればこうしちゃいられない。早く異世界に行って世界を救わなくては!
「うーん、まぁ、見方によっては……」
「女神さん、ありがとうございます!!」
私は女神の返答など待たずゲートをくぐって異世界へと旅立つのだった。
「あ、ちょっとま……、ってもう遅いか」
一人残された女神はまた一つ大きなため息をつき、その場に寝転んだ。久しぶりの仕事にどうも疲れてしまったようだった。
「(選ばれた人間か……。本当に彼女がそうであればいいんだが……な……)」
彼女は一つあくびをして、次の勇者候補がやってくるまでの間、眠りにつくことにしたのだった。