相談
「全てって……そんな大げさな」
「大げさなものか! 私は大真面目だぞ」
サクラは俺の方をジッと見つめている。
その瞳に、嘘はないように思えた。
でも……俺はサクラの人生が変わるようなことを、しただろうか。
「まず私の『聖騎士』としての一生が終わりかけているところを、アルノードに助けてもらうことができた。そして私はアルノードと知己になれたということで陛下からの覚えもめでたくなった」
そうだよな、なんだか懐かしささえ感じてくる。
オウカが攫われてあたふたと店周りをしていたのが、ずいぶん昔のことのように思えてくる。
たしかにあの時、俺と出会えてなかったらサクラは大変なことになってたかもしれない。
嫡子を誘拐された肉親の護衛。
要らぬ疑いをかける人間だっているだろうし、その実力を信じる人間はいなくなるだろう。
「だが一番私の心を揺さぶったのは……やはりアルノードの力、だな」
「……戦闘能力ってことか?」
「純粋な戦闘能力だけではない。使う魔法の緻密さや、練る気力の滑らかさ。私は魔法にも気力にも自信があったのに、自分の実力がどれだけちっぽけなものなのかを、教えてもらったよ」
私が最近魔法を使わないのも、アルノードの影響なんだぞと彼女は続けた。
なんでもどちらも使っていては、器用貧乏になりかねず、成熟するまでには時間がかかるからということらしい。
なので今は気力だけを使うように心がけ、まずは一流の戦士として成長することを目指しているんだと。
その際に参考にしたのは『辺境サンゴ』の面々ということだった。
たしかに彼女たちの中には、入りたての頃はオウカより弱かった者もいる。
そのやり方は、間違っていない。
現に今も、サクラの実力は上がり続けている。
人って言うのは、当たり前だけど戦えば戦うだけ強くなるからな。
万全な治療体制で怪我人を治せる状態下、怪我をしてでも魔物と戦い続ける今のリンブルの環境は、強力な兵を育てるのに適している。
「私はずっと、ハリボテの騎士だった。お父様の名前で騎士にしてもらっただけの存在だった。でもそれを、アルノードが変えてくれた。知っているか? 今では私は、第一騎士団の中でもかなり実力が高いんだぞ?」
「ほう、それならゆくゆくは団長も目指せるかもな」
「団長、か……」
「なんだ、あまり出世には興味がないタイプか? ちなみに俺もそうだ」
「いや、別にそういうわけではないんだが……」
言い淀んだまま、サクラは立ち上がる。
起立を促された俺も立ち、歩き出す彼女の後ろをついていく。
相変わらずにぎやかな通りを歩いていると、さっき食べた焼き菓子の露店のおっさんが、こちらを向く。
あんたらも好きだねぇ、と笑っていた。
余計なお世話だ、この野郎。
「私はどうするのがいいのか、少し悩んでいるんだ」
「それは……前に言ってた、代官がどうとかって話か?」
「いや、違う。私はアルノードを知っている。だからアルノードを国外追放できるようなデザントがどれだけ余裕のある国なのかも、肌感で理解できている」
「なるほど……」
デザントとの差があまりにも大きいことをしっかりと理解している自分が、ただトイトブルクからやってくる魔物を倒しているだけでいいのか。
何か他にも、自分にできることがあるのではないのか。
サクラの抱えている悩みとは、つまりはそういうことらしかった。
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