好きな人……?
「サクラが好きな男っていうのは、どんな奴なんだ?」
「それは……内緒だ」
いきなり核心に踏み込むのは、まだ早いらしい。
それならまずは外周から、一歩一歩進んでいこう。
「じゃあちょっと話を戻してさ、今じゃなくて昔はどうだったんだ?」
「昔?」
「ああ、誰だって一度や二度は、誰かを好きになったことくらいはあるだろ?」
「昔か、そうだな……」
少し悩んでから、サクラは何人かの名前を挙げた。
彼らの名前を聞いて、今度は俺の方が笑い出す。
「笑うなよ、アルノード。お前も人のことを言えないぞ」
「あー、悪い悪い。たしかに我慢しようとしても、つい笑っちゃうなこれ。我慢しようとすればするだけ、逆にできなくなる」
サクラが挙げた名前は全員、おとぎ話の中に出てくる英雄たちだった。
例えばそれは、悪いドラゴンに連れ去られ、塔の中に幽閉された姫を救い出す騎士だったり。
疫病を蔓延させた悪い魔女を討伐した英雄だったり。
魔物の王である魔王を討伐した勇者だったり。
女の子が好きな、庶民が白馬に乗った王子に見初められるような話に出てくる人の名は一人も出なかった。
好きな人はみな、おとぎ話の中の豪傑ばかりというのが、なんだかサクラらしい。
「そういうお話が好きなんだから、しょうがないだろう……」
「ああ、いいんじゃないか? 俺とはそっちの方が話が合うしな。でも侯爵とかはそれを許してくれたのか?」
「もちろん最初は許されなかった。だから父上に内緒で本を買い集めていたな。そしてバレた時には既に私がどっぷりと沼に浸かっていたから、認めざるを得なくなった感じだ」
にしても、サクラの本の趣味は割と男っぽいんだな。
たしかに時々、男装の麗人かと思うほどにきまっている時もある。
どちらかというと、男性脳なのかもしれない。
……などと考えていると、サクラが眉間にシワを寄せて唸った。
どうやら何を考えているか、察されたらしい。
なぜバレたし。
「一応言っておくがなアルノード。私はお前ほどガサツじゃないし、女を捨てているわけでもないぞ」
「も、もちろんわかってるって。だからそんなにキツい視線で睨まないでくれ」
「一通り裁縫はできるし、ダンスはオウカより上手いぞ。……殿下が開いたパーティーの時に、披露することができればよかったんだが……」
「たしかにその頃は、サクラは各地を飛び回ってたもんな」
無論サクラを完全に女を捨てたような人だと思ってはいないぞ。
だって朝練の時とかも、なんでこんなに心がざわつくんだろうっていうくらい、いい匂いがするし。
市場で食っていた時なんかは割と砕けてはいたが、みんなで会食をするときはきっちりとテーブルマナーも守っているしな。
少しばかり食べる量が多いだけで、普通の貴族の子女と変わらないだけの気品は持っていると思う。
「たしかに軍隊暮らしが長くなってきたせいか、若干男勝りになっているところはあるかもしれないが……私だって花も恥じらう乙女なんだぞ! わかっているのか、アルノード!」
そんなに執拗に確認しなくても、もちろんわかってるって。
な、なんでそんなに焦ってるんだ?
何回も言わなくても、平気だから。
だから落ち着いてくれ、ごめん、俺が悪かったから。
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