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「ほれ、冷やした手ぬぐいだ。身体の火照りが取れるぞ」

「ありがとう……」


 いつものように日課の朝練を終え、手ぬぐいで汗を拭く。


 使用人たちが起き出す時間になったからか、屋敷の中から生活音が聞こえ出す。

 この人が生きてるって感じ、なんだかいいよな。


「んーっ!」


 グッグッと全身の筋肉を伸ばす。

 筋がおかしくならない程度に、手の力も付け足して身体を曲げていく。


 運動する前のいわゆる動のストレッチも大事だが、運動を終えてからの静のストレッチというのも案外大切だ。

 するのとしないのとでは、次の日の身体の強ばりが全然違うからな。


「よし、それじゃあ押してくれ」

「わかった――ふんっ!」


 地べたに座り大股で足を開いた俺の背中に、グッと力強い感触が。

 サクラの両手で背が押され、上半身がグッと前に押し出される。

 彼女が自重を乗っけてのしかかってくると、身体はぺたんと地面にくっついた。


「アルノードって、かなり身体柔らかいよな……」

「硬くていいことなんて一つもないからな。日々のストレッチは割と大切だと、俺は思う」


 最近ではサクラは、特に抵抗なく俺の柔軟運動の手伝いをしてくれるようになった。


 殿方の肌に触れるなんて……と令嬢特有のおしとやかさを発揮させていたが、身体のメンテナンスのために必要だと説明をしたら、ちゃんと納得してくれた。


 それでも初めの頃は相当おっかなびっくりだったが、やっぱり人間は慣れるものだ。

 今では抵抗なく全力で背中を押してくれている。


 こちらの柔軟が終われば、次はサクラの番だ。

 既に鎧を脱ぎ終え肌着になった彼女が、まずはグッと身体を前に曲げる。


 柔軟を始めてからまだそれほど時間が経っていないので、地面に手をつけるまではいかない。

 ギリギリくるぶしのあたりまでで止まる。


 次にさっき俺がしたのと同じように、地面に座り足を開く。

 右足に向けて身体を曲げ、同じように左側へ。

 そして最後に真ん中にぐぐっと上体を傾ける。


 ある程度筋が伸びているのを確認してから、後ろから背中を押す。

 一気にやりすぎると筋が伸びきったり、下手をすれば断裂してしまうこともあるため、注意が必要だ。


「んーーーっ! い、痛いぞ!」

「痛いってことは、それだけ筋が伸びてるってことだ」


 こういう内側の痛みっていうのは、戦闘でできる外側の痛みとはまた違った感覚だ。

 俺は外傷に慣れているから骨折した状態でも魔法は使えるが、内側が痛めばなかなか魔法は使えない。

 どうやらここ最近でかなり戦闘慣れしてきたサクラでも、こいつには耐えられないらしい。 どんな奴でも、内側は案外脆いものである。


 ……そんなためになるようなならないようなことを、頭を必死に回して考えているのは、俺の中にある煩悩を思考で強引に追い出しているからだ。


 このストレッチの時間は、俺にとってめちゃくちゃ緊張するし、神経を使う。

 何せ……こうやって女の子に触れるの、慣れてないからな。


 グッと身体を前に押し出して背中を押すと、サクラのやわらかい身体の感触がダイレクトに伝わってくる。


 運動して汗を掻いたはずなのに、まったく嫌な香りはしない。

 それどころか、汗と彼女のつけている香水の匂いが混ざり、クラクラするようなとんでもなくいい匂いがする。


 女の子って、どうしてみんなこんないい匂いがするんだろうか。

 これは本気で、人間の七不思議の一つに数えることを検討するべきかもしれない。


 煩悩退散、煩悩退散……鎮まるんだ、俺の心よ。


「ま、こんなもんだな」

「ふうーーっ……アルノード、痛かったぞ」

「痛いところまでやらないと、柔らかくならないんだよ。だからそんな目で俺を見ないでくれ」


 ストレッチを終えると、サクラが非難の目で俺を見てくる。

 正直、そんな顔するなら、俺に手伝って欲しいって言わないでくれよと思わなくもない。


 けれど『辺境サンゴ』のみんなとのふれ合いの中で、俺は正論は感情の前に意味を成さないということを知っている。

 感情的な相手を、論理で説得することなどできないのだ。

 もしかしたら戦争がなくならない理由も、そういうところにあるのかもしれない。


 ……と頑張って心頭滅却しているうちに、ストレッチが終わり、朝ご飯の時間になる。

 サクラとはこの屋敷に来てから、ずいぶんと打ち解けられた気がする。

 やっぱり同じ時間を共有することって、人と仲良くなるためには大切だよな。

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