いやいや
食事を終えてから一度部屋に戻り、腹ごなしを。
満腹が一段落したら、寝る前のお風呂の時間だ。
仕事をして、いっぱい食べて。
風呂に入って、ぐっすり寝る。
これぞ理想の一日って気がしてくるぞ。
俺は一応屋敷の中では食客の扱いらしく、使用人達よりも先にお風呂に入る権利が与えられている。
侯爵→オウカとサクラ→俺→使用人
って感じだ。
別に厳密に決まってるわけじゃないらしいから、俺は割とどのタイミングで入っても問題ないらしい。
俺はわりと、風呂が好きだ。
薪で沸かすのも好きだし、温泉を掘り出して露天風呂なんてのも大好物である。
以前出張で行った時の天然風呂はよかったなぁ……なんで自然に湧いてるお湯だと、疲れが取れるような気がするんだろう。
変な匂いがしていかにも効きそうだから、そんな風に感じるだけなのかもしれないけど。
準備といっても、入浴に必要な道具はすべて風呂場に用意してある。
俺が持ってくのは、自前のパジャマくらいなものだ。
この屋敷にも慣れたもので、今では広い邸宅のどこをどう進めばいいかがはっきりとわかる。
以前道に迷って、メイドさんに道を聞き笑われたのも、今ではいい思い出だ。
ちなみにメイドさんは楚々とした人だったので、笑われてもまったく嫌な気分にはならなかった。
メイドさんに美人しかいないのは、いったいどうしてなんだろうか。
どうでもいいことを考えながら歩いていると、すぐに風呂場にたどり着いた。
わくわくしながら、引き戸になっている扉を開く。
そこには――バスローブを羽織っている、サクラの姿があった。
「ふっふーふふっふーん……」
サクラは『乾燥』の魔道具であるドライヤーで髪を乾かしながら、上機嫌で鼻唄を歌っていた。
微妙に音痴なのが、愛嬌があっていいと思う。
抵抗なく指を通す髪のサラサラ具合も、湯上がりでほんのりとピンク色になっている頬も、なんだか無性に色っぽく感じてしまう。
少し入浴タイミングをマズったか……と一人反省していると、サクラが目を開ける。
そして鼻唄を歌ったままこっちを向き――そのままフリーズした。
「――えっ!?」
「ごごごごめんなさい!」
俺はキョドりながら、掴んでいた引き戸を戻して急ぎドアを閉める。
この場を去るべきか留まるべきか悩んでいると、ドライヤーのぶぅんという唸るような音が消える。
そして扉の奥から、か細い声が聞こえてきた。
「いや……私の方も、少しばかり入浴時間を過ぎていた。謝らなければいけないのは私の方だ」
「いやいや、時間のゆとりを持たせずに入りに来た俺の方が、絶対悪いから。女の子なら入浴後のあれこれにも時間がかかるだろうに、そこまで気が回らなかった」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
押し問答が続き――どちらからともなく、プッと笑い出す。
引き戸が開き、中からサクラが出てくる。
バスローブ姿なのを気にしているのか、空いた隙間はほんの少し、わずかに顔が覗く程度しかなかった。
「と、とにかく……アルノードは気にする必要はないからな」
「ああ、わかった……じゃ、じゃあちょっと適当に散歩してから、また来るわ」
「ああ、十分くらいぶらついていてくれると助かる」
なんとなく、引き戸越しに見つめ合ってから……どちらからともなく手を離し、別れる。 うーん……とりあえず、なんとかなってよかった。
――バ、バスローブで残念だったとかは、思ってないからな!
……ほんのちょっぴりしか。
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「ちょっと、アルノード!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




