喧嘩両成敗
『辺境サンゴ』の面々を取り纏めているのは基本的にはエルルだ。
戦闘能力だけで考えれば酔っ払ったライライが最強だったりするが、そもそも泥酔状態の彼女は目の前に居る敵を思いっきりぶっ叩くくらいのことしかできなくなる。
基本的に一番上に立つのは、強い奴ではなく頭のいい奴とか、余所と交渉ができる奴にすべきだと思っている。
だからエルルに任せれば問題ないと思ってたし、今まで問題も起きなかったんだが……一体何がいけなかったんだろうか?
「そこで乱闘が発生し、一時は死人が出るかと誰もが考えるような惨状になったらしい……」
「どうしてそんなことに……今まで、俺と離れてる時はあんまり羽目を外すような奴らじゃなかったんだが……」
「これは又聞きの話で、そしてできれば気を悪くせずに聞いて欲しいのだが――」
まず最初に問題が起こったのは、王党派のとある子爵が供出した騎士団の副団長だったという。
俺たちが支給した魔道具で、街の防衛はできるようになった。
そして俺たちが事前に強い魔物たちを間引いておいたので、進軍をしても以前のような手痛い被害を負うことはなくなった。
その様子に増上慢になったのか。その副団長はこう言ったという。
「これならもうデザントの力を借りる必要などあるまい。そもそもそんなものなどなくとも、我らだけで十分に国防に足りていたのではないか……?」
気力操作の達人の多い野営地でそんなことを言うあたり、そいつは本当に能がないんだろう。
当たり前だがそいつの言葉は、『辺境サンゴ』の隊員ほとんど全員に届いていた。
だが最初は、それでもまだ耐えていたらしい。
みなの我慢の尾がプツンと切れたのは、その次の言葉だった。
「あんな得体の知れない魔導師などさっさと国元に還してしまえばよいのだ。おまけにあの一行には黒魔術師もいるというではないか……」
真っ先にキレたのは、なんということかエルルだったらしい。
多分誰よりも責任感が強いせいで、我慢ができなかったんだろうな。
自分がリーダーを務める『辺境サンゴ』のセリアを馬鹿にされては、引けなかったというのもあるかもしれない。
冒険者稼業を続ける以上、他人から舐められないというのも重要になってくるからな。
「団長と一緒に私たちが戦い、平和を取り戻したこの場所で! よくそんな言葉が吐けるな! おまけに黒魔術師だと!? 恥を知りなさい、この外道!」
彼女は俺が絡まなければ温厚だが、一度スイッチが入るとどうなるかまったく予想がつかないからな……。
エルルはその副団長に模擬戦を行い、顔の原型がなくなるほどボコボコにしたらしい。
それにキレた隊員が出張り、エルルがそいつらを返り討ちにし。
その仲間の騎士団がやって来て、さすがに多勢に無勢だと『辺境サンゴ』の面子が出張り……乱闘になったと。
誰も骨折以上の怪我はしてないから、手は抜いていたんだろうが……にしてもやりすぎだ。 お貴族様には手を出さなかったらしいが……騎士の叙勲を受けている時点で、一代限りの騎士爵はもらっている。
準貴族をボコしている時点で、かなり面倒になりそうだ。
あいつらにももうちょっと、戦い以外のことを教えるべきかもしれないな。
一段落したら、一般常識から教えなくては。
「むしろ俺が現地まで謝りに行きたいんだが」
「その必要はないぞ。『辺境サンゴ』への労いとして、ソルド殿下とアルスノヴァ侯爵の連名で報奨金が送られている」
「……それで手打ちに、ってことか?」
「さすが話が早いな。そうだ、どっちも悪かったから、お金で解決。大人のズルくて賢い処世術、というやつだな」
偉い人間は、騎士の部下がしでかした不始末をなんとかしなくちゃいけない。
けれど立場上、頭を下げることもできない。
自分の名前で金を出すから、お互いここで喧嘩両成敗で矛を収めてくれってところか。
……セリアも使い魔くらい出せるだろうに、俺の方にまったく連絡が届いていないのは一体どういうわけだろうか。
ソルド殿下の方も、一声かけてくれてもいいだろうに。
「アルノードがそれだけ大切に扱われているということだ」
嬉しいやら悲しいやら……どんな感情で受け止めればいいか、判断に困る。
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