問題
どうやら『辺境サンゴ』のみんなも頑張っているらしい。
サクラはみんなの勇姿を、臨場感たっぷりに語ってくれる。
彼女も途中から『辺境サンゴ』と騎士団の即席パーティーに合流していたらしいからな。
今は自分のことに精一杯で、クランのことにまで頭が回っていなかった。
どうせ上手くやってるだろうと、心配もしてなかったしな。
久方ぶりに彼女たちの話を聞くことができて、俺は大変満足である。
……それほど時間が経っているわけでもないのに、もうずいぶんと会っていないような気がしてくるな。
とりあえずマジックウェポン作りが一段落したら、戻ってみんなと顔を合わせよう。
これって……ホームシックのようなものなんだろうか。
「みんな早く自由の身になって、アルノードのところに来たいようだ」
「そうか……隊長思いだな、みんな。そんなに義理堅くならんでもいいだろうに……」
「あのー……アルノード殿、それ本気で言ってます?」
……それってなんのことだ?
俺がみんなと会いたいと思っているように、みんなも俺に会いたいと思ってくれているってことだろ?
そりゃあ命がけの危機を何度も一緒に乗り越えてきたし、何度も彼女たちのことを助けてきたし、恩を感じるのも当然と言えば当然なんだけど。
そこまで信頼してくれるのは嬉しいが、俺としては誰一人『辺境サンゴ』を抜けないのに少々複雑な思いを抱いていたりする。
――そう、リンブルに来てから今の今まで、一人として『辺境サンゴ』に脱退希望者は出ていない。
それどころかみんな、このクランで頑張るぞと気炎を吐いてすらいる始末。
親離れできない子供を持った父親のような気分だ。
そろそろみんな、自分にしか見えないような人生を歩んでもいいと思うんだけどな。
……みんなと俺の人生が重なっている道を選んでくれるのは、素直に嬉しいんだけどさ。
あのシュウでさえ『辺境サンゴ』を離れようとしないのは、少し驚いた。
ソルド殿下なら、俺よりもいい条件とか出せそうなもんだけど。
「俺も鎧を作り終えたら、さっさと戻らないとな」
「今のペースだと、何時くらいに終わりそうなんですか?」
「んー……あと二ヶ月弱くらいかな」
「騎士団の鎧を揃えるのに、それしか時間がかからないのか。驚きだな」
俺としては、これでも長いと思ってるんだけどな。
拘束され続けるのは、少しばかり困る。
俺がいないと、セリアが契約をしたスケルトンの僕となる、ただのスケルトンの補充ができないのだ。
今のままではセリアの負担が大きくなりすぎる。
悪魔は増やしすぎると問題を起こしがちだしな。
「侯爵騎士団の力はどうだ?」
「以前と比べれば格段に上がっている。団長クラスの実力者であれば、セリアの使うアンデッドと戦って、勝ち越しているぞ」
「ほぉ……それはすごい」
セリアの力はあの『通信』の魔道具越しに多くの人に見られているため、彼女が死霊術士であることはみなの知るところになっている。
悪魔召喚を始めとする各種禁術については上層部のごく限られた人間にしか知られていないけどな。
要らぬ混乱は、俺たちの望むところではない。
けど奪還作戦がもし上手く行きだしたら、遅かれ早かれ悪魔たちは兵士の目に付くことになる。
できればそうなる前に、悪魔を還すか俺が近くに居ようかと思ってたんだが……リンブルも底力はしっかりあるみたいだし、悪魔を還しても問題なさそうだな。
魔法技術では遅れていても、気力の操作に関しては達人級の人間が何人もいる。
彼らにしっかりとしたマジックウェポンを渡せば鬼に金棒、百人力というわけだ。
でもやっぱりそのタイミングをミスれば森から魔物が溢れかねないから、奪還が完了しトイトブルク付近に兵士たちが近付く前に、一度戻りたいな。
王党派が失陥している土地自体は、かなり広い。
それら全てにある程度兵を残すなり、土木作業をして魔物への罠を設置するとしたら、結構な時間がかかるはず。
そこまで気にする必要はない……か。
戻ってから考えても問題はなさそうだ。
元凶であるトイトブルクに向かうまでには……まあ最低でも一年はかかるだろうし。
「そういえば俺がいなくなってから、何か変化はあったか? 俺の穴埋めってわけじゃないが、騎士団の一部と合流してから揉め事起こしたりとか」
『辺境サンゴ』は俺が抜けるとグッと戦力が下がるので、その穴埋めという形で騎士団の選りすぐりの人間を最前線に近いところへ行かせてもらっていた。
この国の精鋭とメンバーを交流させるという目的もあったんだが……そういえばそっちが上手くいったのかどうかは、聞いていなかったな。
純粋に気になったから聞いただけなのだが、俺の言葉を聞いてサクラは苦虫を噛み潰したような顔をした。
その口から語られるのは、騎士団と『辺境サンゴ』の間で起こった確執だった……。
……あいつら、どうして俺がいないとすぐ問題を起こすんだよ!?
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