索敵球
食後のデザートは、シロップを垂らした桃だった。
もともと瑞々しく少し酸っぱかったはずの桃が、口の中に入れた瞬間にわかるほどの暴力的な甘さになっている。
でもこれ……シロップ自体にも、どこかフルーティーな感じがするな。
「この匂い……なんのフルーツを使ってるんだ?」
「桃の香料が少し入ってるんだと思う。同じ匂いがするから」
当たり前だが、今のサクラは鎧姿ではない。
よほど気に入ったのか基本外に出掛けるときは俺があげた鎧を着ているのだが、屋敷の中に居る時は女性らしい私服だ。
それほどゆったりしているわけではないので、ボディーラインが浮き出ており、微妙に目のやり場に困る。
なのでサクラと話すときは、基本的に視線を彼女の顔に固定させていた。
「前線の方はどうなってるんだ? 魔物の脅威自体は大分減っているとは思うんだが」
「その通り、少なくとも領地奪還を始めた一部の部隊を除いては、それほど大きな怪我をすることもなくなった。商隊の護衛も、一般的な冒険者でなんとかこなせるくらいにはなっている」
「俺が想定してたよりずっと早いな。もっと時間がかかると思っていた」
「それだけこの国が、奪還にかけているということだ」
一応『魔力筒』以外にも、俺は個人的にいくつかの魔道具を騎士団に融通してもいる。
例えば回復魔法の入っている『みるみる癒えーる君』とか、シュウが『サーチ&デストロイ君』をデチューンして作った、『索敵球』なんかがそれだ。
回復魔法の使い手は、全体で見るとかなり少ない。
というか『辺境サンゴ』の中でも、まともに使えるのは片手で数えられるくらいしかない。 そして探知魔法が使える人間は、俺とシュウだけだ。
シュウが『通信』の魔道具にかかりきりになっている現状下、付与魔法も使える人間となると俺しかいない。
これらを作れるのは、現状のリンブル国内では俺くらいしかいないのだ。
ただやることが沢山あるので、基本的に製作頻度はあまり高くない。
『索敵球』は素材自体は安めのものでなんとかなるが、シュウが使う精密腕を使わない限りできないような細く長い魔力回路を作らなければいけない。
ぶっちゃけ、一個作るだけでめちゃくちゃに神経が磨り減る。
頑張って各騎士団に数個は配ったから、後は頑張って欲しいというのが正直なところだ。
回復魔法の魔道具を作らないのは、矛と盾なら矛の方がずっと大事だからだ。
傷はある程度自然に癒えるけど、戦うための力っていうのは時間経過では手に入らない。
魔物の撃退しかり国内での牽制しかり、世の中は物理的な力がないとできないことが多すぎる。
ゆくゆくはもうちょっと気合いを入れて、人的損失なんかも減らせたらとは思っているが……今はさすがに手が回らない。
それになんでも俺や『辺境サンゴ』に頼りすぎな体制を作らないようにという配慮もある。
巷にもヒーラーはいるし、教会勤めの神父さんやシスターには回復魔法の使い手も多い。
別に俺らがいなくても回るのなら、無理してやって悪影響を出してもつまらない。
「奪還作戦も、もう始まってるんだな。旗色は良さそうなのか?」
「それを私たちに聞くのか? ……『辺境サンゴ』があらかじめ強力な魔物を間引いてくれていたおかげで、順調そのものだ。『索敵球』があるおかげで、魔物の間引きもスムーズになっている。そう遠くないうちに、失陥した土地を取り戻すことはできるだろう」
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