今日も一日
「ふぅ……」
二人でいい汗を流したなら、汚れを浄化で取ってから水を飲む。
水魔法で生み出した水は物凄くマズいので、井戸から汲んできてもらったやつだ。
運動後に身体をほぐしてから、立ち上って場所を移す。
侯爵邸には、来客用のテーブルと椅子が庭に備え付けられているので、そこに二人で腰を下ろした。
サクラは鎧をつけたままだが、もう気にした様子はない。
最初に朝練をした日なんかは、急いで着替えてこようとしたのだが……俺が気にしないとわかるとそのままでいるようになった。
彼女も戦場経験が長くなり、徐々に感覚がバグってきている。
良い兆候だ……いや、平時だとそうでもないのか?
俺もおかしいところはあるから、あんまり人のことは言えないな。
「何か食べるか?」
「いや、大丈夫だ。今何かを口に入れてしまうと、朝ご飯が入らなくなる」
「そっか」
俺は彼女の了承を得てから『収納袋』に入れているクッキーを取り出し頬張る。
『遅延』の効果付きの保存用のものなので、中から取りだしたクッキーはまだまだ温かい。
運動をした後って腹が減るよな。
あと、疲れた時には無性に腹が減ってくる。
俺がテーブルの上にカスをこぼさないように慎重にクッキーを食べていると、執事のブラントさんが紅茶やポットの乗ったコースターを持ってきてくれる。
滞在していくうちに、使用人の何人かとも仲良くなれた。
今はもう、晩ご飯を大盛りしてくれるようお願いしたりもできる仲だ。
「私が淹れるから、下がっていいぞ」
「かしこまりました」
ブラントさんは何も言わず、頭を下げて去っていく。
そしてサクラが立ち上がり、沸騰した湯に茶葉を淹れて紅茶を作ってくれる。
子女のたしなみらしく、サクラが淹れる紅茶はたしかに旨い。
蒸らす時間があったり、コップに入れてからもすぐには飲んではいけなかったり、そもそも最初に淹れたコップのものは飲んではいけなかったり……紅茶というのは案外守らなければいけないルールがいっぱいある。
どうやら彼女はその黄金律に従い淹れているから、マズくなることはないのだという。
俺や隊員が淹れたら、そりゃ苦くなるわけだよな。
適当に茶葉ぶち込んで温めて、色がついたら飲んでただけだからな。
最初の一杯は飲んじゃいけないとか、「それなんて引っかけ問題?」って感じだよな。
彼女がやると、味が均一に仕上がる。
紅茶を淹れる時は、細かい秒数だけでなく、茶葉の状態まで考慮に入れなくちゃいけないらしい。
「相変わらず上手いな。今日が少し薄めなのには、何か理由が?」
「アルノードが食べる焼き菓子は砂糖が入りすぎている。そこに濃い紅茶を入れれば、口の中で喧嘩をしてしまう」
「ふぅん、そういうもんか……味なんか濃ければ濃い方がいいと思うけど」
「その考え方だと早死にするぞ……軍人はみんな、そんな感じではあるが」
適当に話をしながらティーブレイク。
二人とも暇な身分でもないので、自由な時間帯というのは結構限られる。
こうして朝と夜に空いている時間を共有するのが、今の俺たちの日課だ。
夜になるとここにオウカが入ってきて、三人で食後のデザートを食べたりもする。
なんというか……平和だ。
こういう安穏な生活が、ずっと続けばいいのにな。
……いや、続けることができるように俺が気張らなくちゃいけないのか。
よし、今日も一日しまっていこう。
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