魔力と気力
樹に止まった鳥たちがチュンチュンと鳴き、どこかからニワトリの鳴き声が聞こえてくる朝の時間。
侯爵家の屋敷に逗留させてもらっている俺は、裏庭で剣を振っている。
接近戦が苦手な魔法使いは長生きできない。
魔法をくぐり抜けて近付いてくる気力使いや魔物たちと戦うためには、身を守るための剣技は身につける必要があるからだ。
素振りや、対人戦を想定したシャドーや、気力の練り上げ。
そう言った基礎練習は、基本的には一人でやることが多い。
だってそんなのを他人の前でこれみよがしにやるのって、なんだか自分の努力を見せつけてるみたいで嫌じゃんか。
そもそも努力してる姿を他人に見せるのが、あまり好きではないのだ。
そういうところは、しっかりと男の子なのである。
けれどここ最近は違った。
今も俺のすぐ近くには、ブンブンと元気に剣を振っている人影がある。
「やはり朝から運動するのはいい。アルノードもそう思わないか?」
「同意するよ。夜だと仕事で疲れているし、昼だとそのあとの仕事が面倒になる。結果朝鍛錬するのが、一番身が引き締まる気がする」
俺の隣には、汗を流すサクラの姿がある。
こうやって早起きをして二人で朝練をするのが、ここ最近の俺たちの日課になりつつあった。
そして基礎練習なり準備運動なりを終えたら、お互いに向かい合う。
俺もサクラも、今一番したいのは戦闘訓練だから、お互いの目的は同じだ。
「今日もお一つ、指南を願おう」
「もちろんですとも」
剣を構え、戦う準備を始める。
サクラが気力を練り始めるのに合わせて、俺は魔法を発動させる。
「身体強化」
魔法で身体を強化するのと、気力で身体を強化するの、どちらが優れているかという問題は、デザントでも長年議論されている。
俺としては、大事なのは使い分けだと思っている。
どちらにもいいところと悪いところがあるからな。
魔法による強化には即効性があり、事前準備の必要なく魔力さえ込めれば発動することができる。
そして他人にかけることも可能であり、練達した強化系の魔法の使い手であれば、素人の身体能力を精鋭兵ばりに底上げしてしまうこともできる。
ただし魔法による強化は切れるのも早く、効果を維持したいのなら定期的に魔法をかけ続けなければならない。
かける相手が遠くにいるのなら、飛ばしても外れてしまう可能性もあるし、間違えて敵を強化してしまう可能性もある。
気力による強化は緩やかだが、その分長く続く。
そして限界まで能力値を引き上げた場合、魔力による強化よりもその上限が高くなりやすい。
自分にしか使えず、防御や速度といった一つのものに特化した強化がしにくいため、咄嗟の時の臨機応変な対応がしづらいこと。
そして肉体と密接に関係するため、実戦で培い続けない限りなかなか力が向上しづらいこと。
大きな難点でいうと、そんなところだろうか。
俺は基本、自分の肉体は気力でなんとかしている。
当たり前だが、魔力は魔法を使えば減る。
身体強化と攻防の魔法、どちらも使い続けていけばそれだけ魔力が切れるのが早くなる。
なので気力を使いつつ、どちらかが減ってきたら使用を抑えて回復を待って……みたいな戦い方をすることが多い。
けれどたまには強化魔法も使っておかないと、腕がさび付く。
いざ誰かを強化するという時になって使えないじゃ、話にならないからな。
なので俺は久方ぶりに、身体強化に身体を慣らすために戦いを。
サクラは徐々に練り方が上手くなりつつある気力の扱い方を、格上の俺と戦って更なる高みへ押し上げるために戦う。
最初は傷つけないようおっかなびっくりだったが、骨折くらいなら構わないとお墨付きをもらってから、俺は手加減するのを止めた。
騎士として生きている彼女に、そんなことをする方が失礼だとわかったからな。
だから俺は今日も、容赦なくサクラをボコボコにする。
……まあもちろん、終わったら回復魔法で治すし、謝るんだけどさ。
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