手すき
月間ハイファンタジー1位!
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屋敷に戻ってから、何があったのかを説明しようとしたのだが、侯爵は留守だった。
だがオウカが居たので、彼女に説明をすることにした。
彼女を経由させて、侯爵に伝えてもらおう。
「ふむ、なるほど……アイシア王女殿下が……」
オウカは俺が出掛けていたことまでは知らなかったようだが、アイシア王女殿下が不透明な状態で動いていることは掴んでいたようだ。
俺を引き抜こうとしていることも予測ができていたのか、まったく驚いてはいない。
「会ってみて、どうでしたか?」
「……少なくとも王に向いてはいないと思ったな。あれだけ押しが強いと、色々と大変だろう」
「押しの強さも善し悪しですが……たしかにアイシア殿下の場合は、そうでしょうね」
話していて思ったんだが、彼女には自分が王になりたいという欲望はあっても、王になって何を成したいかという部分がまるでなかったように思う。
そんな人に今後のリンブルの舵取りができるかといえば、間違いなく否。
デザントをなんとかするために必要な王は、女王アイシアではない。
「その言葉、お父様が聞いたら喜ぶと思いますよ」
「どうしてだ?」
「もし地方分派に転ばれでもしたらどうしよう……と割と真剣に悩んでいたので」
地方分派に寝返るかもと思われているとは……少々心外だな。
俺だって自分が組む相手くらいは選ぶぞ。
それにオウカたちとは絆を育んできたつもりだ。
簡単に裏切るほど、浅い仲ではないつもりだが?
「私としても少し不安はありましたけど、基本的には大丈夫だと思ってましたよ?」
「そっか、その信頼に応えられるように頑張るよ」
「もう十分ですよ、私たちが活躍できる場所もしっかり残しておいてください」
オウカはそれほど心配には思っていなかったようで、終始にこやかな態度を崩さない。
彼女はゆったりとしたガウンに身を包み、完全にくつろいでいる。
こういう明らかな家着を着ているのを見るのは初めてだ。
なんていうか、質感があるな。
……どうしよう、そういえばここオウカの私室なんだよな。
話が一段落して下手に冷静になったせいで、逆に緊張してきたぞ。
俺、女の子の部屋とかに入ったこと、ほとんどないからな……。
俺がドギマギしているうちことには気付かず、オウカは机の上にある資料に手をかけた。
そしてペラペラとめくり読み始める。
紙がめくれる音だけが、部屋の中に響いていた。
「これから、アルノード殿はどうするんですか?」
「これからっていうのは、今後の身の振り方のこと……じゃないよな?」
「ええ、それこそ今月は何をするのかなぁと」
直近でどうするか、ね……。
俺自体は実は、手すきではあるんだよな。
『魔力筒』も必要な量は、魔道具班の頑張りのおかげで確保できたし。
やること自体はいっぱいあるけど、白鳳騎士団の鎧が完成し次第付与魔法をかけなくちゃいけないから、あんまり遠出はできない。
なので王都でできるデスクワークなんかをするつもりだ。
戦闘用以外の各種魔道具を作ったり、リンブルの人たちにもわかりやすいようなデザント式の魔法学の指南書なんかを書いたり……って感じだな。
「俺は鎧をマジックウェポンにするだけだから、鎧が完成するまでは結構時間がある。適当に魔道具でも作りながら時間を潰すつもりだよ」
「まあ、それならタイミングはバッチリですね」
「タイミング……?」
「実はそろそろ――」
バタン、とドアが開かれる。
オウカが最後まで言い切るのを待つことなく、部屋の中に来客がやってきた。
「帰ってきたぞ、オウカ……アルノードが、どうしてここに?」
入ってきた闖入者は――久方ぶりに会ってもその美しさに陰りのない、サクラだった。
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