エンヴィーの独白 2
【side エンヴィー】
オーガを狩りに行く前に、まずは住環境を整えていくことになった。
借りる宿は『怪しい風体』という場所の一室だ。
アルノード様はうなだれながらも、私たちの分までお金を出してくれた。
「私、お金を持ってたらあるだけ使っちゃうので! ありがとうございます、隊長!」
そう言って感謝の気持ちを伝えると、アルノード様は頭を抱えてしまった。
いったいどうしてだろう?
借りることになったのは、大きめの部屋を一個だけ。
節約も兼ねて、寝るのは三人一緒だ。
異性に裸を見られるのはもう慣れたので、あまり抵抗はない。
バルクスでは危険がないよう、任務中は異性の前でも着替えるのが普通だったからね。
トイレなんかも遠くでしているうちに襲われないよう、音が聞こえるくらいの距離には誰かがいなくちゃいけなかったし。
宿を決めて、一階にある食事処でご飯を済ませたら、オーガ討伐へ出発!
歯ごたえのない相手なので退屈な任務になりそうだ。
けど隊長と一緒にいられるってだけで、不満はない。
この程度でぶー垂れていては、アルノード様への随行の立場を争った他の子たちの立つ瀬がないしね!
アルノード様には何か考えがあるみたいだし、私は黙ってついていくだけ。
隊長に従ってれば、きっと上手くいく。
バルクスの頃から、私は隊長の信者なのだ。
「あっちに三体……更に右の方に五体いるな。どっちをやる?」
「はいはい、私が五体の方で!」
「……ずるい、私もそっちがよかった」
「早い者勝ちですぅ!」
隊長の手には、懐中時計のような丸い魔道具が握られている。
表面は銀でコーティングされていて、パカリと中が開く仕組みになっている。
時計なら十二刻が刻まれている場所は、つるりとした平面になっている。
そしてその平面の中に、ピカピカといくつかの光点が見えている。
あれは索敵に使う探知魔法を魔道具に落とし込んだ『サーチ&デストロイ君三号』だ。
生き物が無意識のうちに発する魔力を感知して、敵影を探してくれる魔道具である。
使うのに魔力が必要なので私にはまともに扱えないが、かなり便利なアイテムだ。
光点の輝き方で、ざっくりとした強さもわかるらしいからね。
あれは隊長が自分用にチューンアップしたやつなので、他の大隊の魔法使いたちが使っていた物よりも消費魔力が多く、探知範囲が広いものになってるって話を前に聞いた。
すっごく便利なんだけど……魔道具の名前、全部ダサいんだよね。
アルノード様は色んな才能を持ってるけど、ネーミングのセンスだけは神様から与えられなかったらしい。
名付ける魔道具は全部が全部、猛烈にダサい名前ばっかりなの。
性能はすごくいいから、使う分には問題ないんだけどさ。
「隊長はここで――」
「待ってて」
「おう」
オーガ程度でアルノード様の手を煩わすわけにはいかないので、二人でちゃっちゃと狩ってしまおう。
少しでも戦い甲斐があるように二人で別のグループを相手取るつもりだけど、まったく油断はしてないよ?
腕が鈍っていざという時に戦えない方が、ずっと怖いもの。
マリアベルと小突き合いをしながら、獲物のいる方へと駆けていく。
途中で別れて先へ進むと、お目当てのオーガたちが見えてきた。
ゆっくりと近付いていきながら、戦闘準備を整えていく。
向こうもこちらに気付いたようで、早足で駆けてきた。
小さく息を吐いてから、腰に差した剣を抜く。
反りのある真っ白な剣が、その刀身を露わにした。
よく目を凝らしてみれば、うっすらと白いオーラが立ち上っている。
高い生命力を持つドラゴンの素材は、死して尚その強靱さを示し続ける。
私の愛刀は、その名を『龍牙絶刀』。
以前バルクスで出てきた、アイテールドラゴンの牙のうち最も硬度が高かった部分を使用した、最高クラスの逸品だ。
あのドラゴンは身体がでかいくせに、めちゃくちゃスピードがあって誇張抜きに死ぬかと思った。
魔法耐性が高すぎるせいで、隊長でも致命傷を与えられなかったんだよね。
皆でローテーションで戦闘メンバーを入れ替えながら戦い続けて、どうにか倒せたけど……かなりの強敵だった。
単体の強さなら、今まで戦ってきた魔物の中で一番だったと思う。
そんなドラゴンの中でも年齢が高く強力な個体の牙からできているこの剣の切れ味は、それはもう凄まじい。
ミスリルの鎧を噛み砕く龍の牙でできているので、まともな剣ではこれとまともに打ち合うこともできない。
おまけに剣に自分の体力を注ぎ込むことで、威力を更に増大させることも可能だ。
数回も使えば立ってられないくらいに消耗しちゃうから、ここぞという時にしか使えない必殺技だけどね。
近付いていき、一閃。
棍棒で受けようとしたオーガは、己の得物ごと真っ二つになった。
残る四匹のオーガたちは、ない知恵を絞って私を囲もうと動き出す。
だが遅い。
彼らの動きは、高速戦闘に慣れた私からするとあくびが出るほどに遅かった。
後ろに回ろうとする者を切り捨て、正面から向かい合う一匹の頭に突きを当てる。
抜いた剣を横に薙いで四匹目を倒すと、最後の一匹が実力差に恐れたのか逃げようとする。
その無防備な後頭部に剣を突き立ててやると、血を噴き出しながら倒れていく。
戦闘自体はあまりにも一瞬のうちに終わった。
戦うことよりも、お金になる部分を取り出す作業の方がよほど手間がかかる。
バルクスに居た頃は全部『収納袋』に入れていたんだけど、何故か隊長はここでそれをやったらダメだって言っていた。
面倒だなぁと思いながら、言われた部分を切り取って鞄にしまっていく。
魔物を倒したことを示すためには、討伐証明部位と呼ばれる魔物の身体の一部が必要だ。
オーガ討伐の証拠になるのは心筋なので、心臓をまるっと切り取ってしまう。
中には魔石も入っているので、後でほじくるつもりだ。
アルノード様にお金になると言われた部位を切り取っては、鞄の中に入れていく。
今使っている鞄には空間魔法はかかっていないが『消臭』の効果は付与されている。
おかげで血生臭いものをぽいぽい入れても、嫌な臭い一つしなかった。
言われたことをこなして戻ると、別れたところでマリアベルが待っていた。
彼女は相変わらずの仏頂面だが、一緒に死線をくぐり抜けてきた私にはわかる。
今の彼女は、ドヤ顔をしていた。
「私の方が早かった……ふふん」
そりゃあんたは三匹だったんだから、私の方が処理に時間がかかるのは当然でしょ!
口げんかをしながらどっちの方が強いか言い争っていると、すぐに困った顔をしたアルノード様が見えてくる。
見てくださいアルノード様!
私、言われた通りにちゃんとやってみせました!
オーガ程度、まったく相手にもなりません!
本当はもっと強い魔物と戦いたいけど、我慢我慢。
アルノード様は自分の部下が怪我をすることをとっても嫌がる。
なので絶対に安全に戦えるくらいの魔物の相手を命じることが多い。
そして自分は、いつも一番危険なところに飛び込んでいってしまう。
「俺が相手をすれば、誰も傷つかなくて済むからな」とかなんとか言って。
アルノード様、あなたが私たちのことを大切に思ってくれるのはとても嬉しいです。
でもあなたが私たちのことを思うのと同じ……いやそれよりも強く、私たちだってあなたに傷ついてほしくないんです。
今は無理でも……きっといつか、一緒に肩を並べて戦ってみせます!
だって私……アルノード様のこと、大好きですから!
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