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怨嗟

 ソルド殿下との面会を終え、騎士団との相談なんかも終えて日々の業務を終えてから、俺は宛がわれた部屋から抜け出した。

 当たり前だが、アルスノヴァ侯爵に事前に話は通してある。

 裏切られたとでも思われたらたまったもんじゃないしな。


 会合場所に指定されたのは、王都の外れにある倉庫。

 アンバー商会の七番倉庫の場所が、そのさるお方のいる場所だ。


 倉庫の前には門番らしき男たちがいたが、俺の姿を確認するとさっと倉庫を開いてくれる。 中は薄暗く、灯りは一点にしかついていなかった。

 その場所に彼女がいるのだろうと、ゆっくりと歩いていく。




「あなたがアルノードね、初めまして」

「アイシア王女殿下……でお間違いないですか?」

「相違ないわ。私がアイシア・ツゥ・リンブルよ」


 アイシア殿下の見た目を一言で表すことは難しい。

 華やかで派手でありながら、どこか落ち着きのある格好だ。

 プラチナブロンドの髪はランプの明かりを反射してオレンジ色に光り、そのペリドットの瞳は吸い込まれそうなほどに大きい。


 かなりの美人だな……もう三十は過ぎているはずだが、これなら二十代前半と言っても通用するだろう。


 ただ、つり上がっている目からは鋭い光が発されている。

 野心にギラついた若干つり上がった瞳からは、彼女の気の強さが窺える。


「ソルドとは政敵だから、まぁいい話は聞いていないでしょうね」

「そんなことは……」

「お世辞はいいわ」


 アイシア殿下は立ち上がり、手に持った扇子で口元を隠す。

 目が少し細くなり、俺を見定めるような視線が飛んでくる。

 それを平気な顔で受け流すと、彼女はこちらに近付いてきた。


「アルノード」

「なんでしょうか、殿下」

「私の麾下に入りなさい」

「……」


 何を言われるか、大体予想はついてたが……やっぱりか。

 俺を引き抜けば状況が、旗色の悪くなり始めている地方分派が盛り返せると思っているんだろう。

 もちろん俺の答えは決まっている。


「お断りします」

「……あなたが必要だと思うものを全て与えてあげる。地位も、お金も、名誉も、女も。今みたくソルドの下で冒険者をやるより、ずっと素晴らしい日々になると約束するわ」


 素晴らしい日々、か……。

 俺と彼女の間には、ずいぶんと大きな価値観の相違があるようだ。

 俺は今の毎日が、そこそこ素晴らしくて好きなんだよ。



 別に、しっかりとした何かがあればアイシア王女殿下についてもいいとは思っている。  例えば彼女が国の舵取りをした方が、リンブルが上手く纏まったりするっていうなら、鞍替えもやぶさかではない。

 けどなぁ……。


「私が王になった暁には――」

「私の下で今よりもずっと――」

「なんならあなたが国の宰相に――」


 最初は真面目に聞いていたが、すぐに話半分に聞き流した方がいいと気付いた。

 話を聞いている限り、彼女はどこまでも我が強い。


 私が、私が、私が。


 何を話していても、とにかく自分が一番でなければ気が済まないという様子だ。

 なんなら国よりも自分の方が大切とでも思っていそうな気配すらしてくる。


 俺は王様に必要なのは、そういう我の強さではないと思う。

 時に自分を押し殺し、民のためにしたくないことをしなくちゃいけないのが、王の仕事だからだ。


 トップの人間っていうのはいつだって、色んな物を飲み込まなくちゃいけない。

 そうやって考えると……アイシア殿下よりソルド王太子殿下の方がずっといい王になれると思う。


 俺が丁寧に謝辞を述べると、鼻息荒くもういいと叫ばれる。

 そろそろ潮時だろうと、アイシア殿下に背を向けて歩き出す。


「後悔することになるわよ……」


 背中にかけられた声には、怨嗟がこもっていた。

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