王女アイシア 3
【side アイシア・ツゥ・リンブル】
アルノードが引き連れている『辺境サンゴ』の強さは異常だった。
今までひいひい言いながらなんとか防衛を続けてきた王党派の奴らは、『辺境サンゴ』による支援のおかげで大きく変わった。
堅牢な要塞が築かれ、平穏を脅かしていた魔物たちは討伐され、往来の時の危険は彼らが造り出した魔道具によって大きく減った。
アルノードのせいで、王党派は完全に息を吹き返してしまった。
いや、それどころか下手をすれば……以前よりもずっと手強くなったかもしれない。
まず王党派は魔物の侵攻を最前線で抑え続けてきた。
その実戦経験の多さというのが脅威だ。
そのため王党派にいる兵士たちは、数はどんどん減ってはいたがその分精鋭に育っている。
人間には魔力と気力がある。
その練り方や使い方というのを学ぶのは、やはり実戦が一番と聞く。
兵士たちというのは、基本的には使えば使うほど強くなっていく。
それも死ぬような思いをすればするだけ。
魔の森の魔物たちとの戦いは、彼らに強くなれる環境を与えてしまっていた。
地方分派はそれぞれの貴族の仲はよくはないが、戦争が起こるほど悪いわけでもない。
せいぜいが、水利だの鉱山の私有権だのという各種の権利問題で紛争が時折起きるくらいだ。
そのため私たちの抱える兵士は、久しく実戦というものを経験していない。
兵士たちが強くなることだけならば、問題にはならなかった。
いくら精鋭の兵士であっても、三人に同時に攻撃をされれば対処はしきれない。
数の暴力と金の力があればどうとでもなるからだ。
これが問題になったのは、アルノードと彼が率いる『辺境サンゴ』が魔物を倒し、東部の安全保障体制を確立してしまったからだ。
彼らはデザント式の高性能な魔道具を惜しげもなく提供することで、王党派の貴族の抱える私兵たちの武装を軒並み強力なマジックウェポンへと変えている。
今まで東部とは、行けば魔物に食われる可能性があり、恐らくは今後も失陥していく土地が増えていくはずという危険な地域だった。
そんな場所に人は集まらず人口は流出し、商人も寄りつかなくなる。
先細りしていくしかない場所に、金銭は集まらない。
しかしアルノードたちによって、事情は一変した。
今のリンブル東部は魔物の被害も減り、土地を奪還できるという期待感に包まれている。
商人たちもそこに新たな商機を見出し始めていた。
それこそが稀少な魔物の素材と、アルノードたちから技術を教えてもらうことで作られている、最新式の魔道具である。
今までは危険すぎて採算が取れなかった魔物の討伐は、今ではある程度安全マージンを取って行えるものへと変わっている。
危険で安かった土地が、安全で安い土地へと変わった。
そしておまけに、魔物に魔道具という新たな産業になるであろうものが二つもできた。
投げ売り状態だった土地の価値はどんどんと上がっており、王都に居る商会もかなりの割合で東部へと投資を開始している。
下降線を辿っていた東部地域の経済は持ち直し始めており、徐々に上向きになり始めていた。
先行きが明るいのならば、わざわざこちら側になびくような王党派貴族はいなくなる。
少し前までは羽振りをよくすればついてきていた貴族たちは、今ではソルドの忠犬になってしまっていた。
あのままいけば壊滅していたはずのアルスノヴァ侯爵の騎士団は、人命の損失が減り、新たな入団希望者により戦力を増強中。
ソルドの白鳳騎士団にはアルノードが直接出向き、強力なマジックウェポンを分け与えているという。
既に戦力差は覆ってしまっている。
そこにアルノード率いる『辺境サンゴ』まで加わるのだ。
更に放置しておけば、デザント式のマジックウェポンが拡がり戦力差は広がるばかりときている。
この一連の、東部の逆転劇。
それら全てを演出したのは――間違いなく『怠惰』のアルノードだ。
彼が全てのキー。
彼さえいなければ、今もまだ王党派は不況と経済の低迷に喘いでいた。
間違いなくそう遠くないうちに……私に白旗を上げていたはずなのに!
「ああっ、もうむかつく!」
白磁の花瓶を割り、水差しを壁に投げつけ、物にあたることでなんとか気持ちを落ち着かせる。
私の旗色は日増しに悪くなっている。
ここ最近、デザントが私に献金する額が明らかに減り始めている。
このままでは私が王位を継ぐことはできないと、見切りをつけ始めているのだろう。
私が――私が王になる!
あと一歩、ほんの少しで念願が叶うはずだったのに!
現在、大勢は決まりつつある。
父上は何もできない腑抜けだから、そこを使って現状を打破することもできない。
となれば残っている手段は一つ。
なんとしてでも、アルノードをこちら側に寝返らせる。
それさえできれば、状況は一変する。
私たちが彼の持つ全てを手に入れることができれば何もかも元通り……いや、前よりずっとよくなるはずだ。
デザントのことをよく知っている彼がいれば、私が王になってからも楽になるはずだし。
だから私は子飼いの密偵であるカナメに、アルノードを呼び出すよう命じた。
王宮ではソルドや父上の目がどこにあるかもわからないから、うかつに声をかけることはできない。
待ってなさい、ソルド……。
私はまだ、終わっちゃいないのよ。
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