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さるお方

 王宮へ入る俺を待っていたのは、かなり厳重なボディチェックだった。


 事前に話は聞いていたので、大抵の荷物は全て馬車の中の『いっぱいハイール君』の中に収納済みなので、押収されたりする心配はない。


 何度も身体をまさぐられ、何も持っていないことを確認されようやく許可が出る。

 そんなことを二度ほど繰り返しながら、衛兵たちが矛を携えて左右に立っている道を歩いていく。

 地面には赤い絨毯が引かれているし、高そうな美術品なんかも飾ってある。


 全体的にハイソな雰囲気が漂っていて、どうにも落ち着かない。

 今ばかりは、血生臭い戦場やかび臭い家で落ち着く小市民な自分が憎い。


 王宮の一室で待たされることしばし、ようやく謁見の準備が調ったようだ。

 何かまずいところはあるまいかとセルフチェックをする。


 着ている黒いスーツにはほつれはなく、ネクタイも曲がってはいない。

 しばらく着ていなかったせいでシャツの襟が首筋に触れるのに少し違和感があるが、別段おかしなところはなかった。


 よし、王に会いに行くとするか。

 リンブルで暮らす以上、顔合わせは避けられないからな。





「余がフリードリヒ四世である。アルノード、(おもて)を上げよ」

「はっ!」


 顔を上げると、そこにあったのは灰色の目をした老齢の王だった。

 年齢はまだ六十になっていないというが、公務が忙しいのか心労がたたっているのか、実年齢よりもずっと老けて見える。


 周囲には王を守る近衛兵の姿はあるが、他の王族の姿はない。

 ソルド殿下の姿もないのは、彼も王都に帰ってきてかなり忙しい身分だからだろう。



 リンブル国王は玉座に腰掛け、手にはルビーの嵌まった金の錫杖を持っている。

 頭にある、ミスリルやプラチナの散りばめられた王冠と合わせてかなり目に眩しい。


「リンブルに来てくれたこと、大変嬉しく思う」

「いえいえこちらこそ。私どもを温かく受け入れて頂けたこと、幸甚に思っております」

「なんでも我が国の国防のために骨を折ってくれているとか」

「微力ながら、お手伝いをさせていただいております」

「うむ、よきにはからえ」


 それだけ言うと、退出を促された。

 もっと今後の話が出てくるかと思ったが、国王はそこまで話をするつもりはないようだった。


 余所からやってきた外様の俺に対する扱いなんてこんなもんだろうと思っているから、別に気を悪くしたりはしていないんだが……どうにも危機感のない王様だな。


 今のリンブルは結構危険だと思うんだが、彼からはそういった切羽詰まったような様子は一切見受けられなかった。

 その分を彼の息子と娘、それから大臣たちが補っているってことなんだろうな。


 フリードリヒ四世自体はかなり温和で、良くも悪くも平凡な王だという話は殿下から聞かされている。


『過度な期待も過度な失望もしないでくれ。今は父上が息災でいることが一番大切だ』


 父が死んで継承問題が具体性を帯びてくれば、それがソルド王太子殿下とアイシア第一王女殿下やノヴィエ第二王女殿下の王位継承問題に発展する。


 一度争いが始まれば、それは王党派と地方分派、そして中立派による内戦になりかねない。


 現在ソルド殿下はそうなるのを回避するため、東部領地の奪還や新たな魔法技術を餌に他派の切り崩しに忙しいらしい。

 恐らくは謁見に同席しなかったのもそれが理由だろう。


 厳密なスケジュールが決められているらしく、謁見が終わった俺は再度応接室で待たされることになった。

 さて出て行こうかと思ったその時、天井裏から魔力反応を検知した。


「いったいどなたでしょうか?」


 飛び上がり天井裏を軽くノックしてやると、観念したような顔をして一人の女性が現れる。

 黒尽くめの衣服に身を包み、口元を隠しているが、相当な美人だな。


「さるお方があなたとお会いになることを望んでいます。もしよろしければ――」


 彼女は何かに気付くと、サッと俺の手に紙を握らせてジャンプした。

 天井裏に戻り、羽目板を直し証拠を消すと、コンコンと控えめなノックが。

 なかなか素早い身のこなしだな。


「アルノード殿、よろしいでしょうか」


 俺は兵士の先導に従い、王宮を後にする。


 ふむ、さるお方……ね。

 まあなんとなく察しはつくが……一応会ってみるか。


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