魔力筒
「んんっ……少し眠いな」
ふわあと大きなあくびをしながら、ベッドから起き上がる。
今寝泊まりしているのは、ドナシアにある屋敷ではなく使われている木材の匂いの残る掘っ建て小屋の一室だ。
俺一人だけ良いところに寝泊まりするというのは、据わりが悪いからな。
昨日はずいぶんと疲れた。
何故か急に踊りたがってきたメンバーたちに付き合っていたせいで、ダンスタイムが終わる時までずっと踊らされたんだよ……。
みんなが楽しそうだからよかったが、それを一人で引き受けることになったせいで俺はクタクタだ。
身体的な疲れというより、気恥ずかしさとか密着具合とかによる精神的な疲れだな。
女の子の上目遣いは、どうしてあんなに魅力的に見えるんだろうか……。
開幕からずっと踊り続けていたせいで、ダンスが上達してきた気すらしてくる。
バキバキと首を鳴らしてから、ベッドから起き上がり頬を叩く。
今日からしばらくは魔道具造りに精を出すつもりだ。
少しでも早くって、オウカに約束しちゃったからな。
家を出て少し歩くと、掘っ建て小屋の中で周囲より少し造りのいいのが一軒見えてくる。
あれが魔道具作成を行なっている小屋だ。
ある程度の機密が含まれてるため、中でもしっかりとしたものをあてがっているのだ。
「隊長、おはざーっす」
「おう、早くから精が出るな」
「精出さないと終わらないんで……」
グロッキーな顔をしながら俺を出迎えてくれたのは、かつて大隊の魔道具部門に所属していたメンバーたちだった。
少し堅苦しいので、今では魔道具班という形に呼び名を変えている。
ちなみにこの場にシュウはいない。
あいつが開発した『通信』の魔道具がソルド殿下に見込まれ、王家が支援を約束してくれたからだ。
なのでシュウは単身改良のための研究を行っており、シュウの部下が魔道具作成にあくせくしている。
俺がやってきたのはその手伝いというわけだ。
良い機会だし、俺もできることはするべきだろう。
「今やってる作業は……『魔法筒』の作成か」
「これが一番数が必要なので」
『魔法筒』とは、攻撃のための魔道具としてはもっともメジャーなものの一つだ。
仕組みもシンプルなので、作成の手間もそれほどかからない。
筒型の金属か魔物素材に付与魔法を施し、内側から攻撃魔法が飛び出すようにするだけでいいからな。
魔道具にはいくつかの種類がある。
周囲の魔力を吸い込んで貯蓄し、使えるようになる魔力貯蔵型。
使用者の魔力を使って発動する魔力使用型。
魔石を使うことで、そこに込められた魔力を使用できる魔石使用型。
現在俺たちが作っているのは、このうちの三つ目である魔石を消費して使用するタイプの『魔法筒』だ。
これには魔力を扱えない一般的な兵士でも使えるというデカいメリットがある。
その分結構な魔力を食うので、頻繁に魔石を交換する必要があったり。
魔石から強引に魔力変換を行うために、壊れやすく定期的に修理が必要というデメリットもあるんだけど……そこらへんは一長一短だ。
これをとりあえずリンブルの防衛を担当する兵士たちに回すのが、『辺境サンゴ』の魔道具班の当面の目標だ。
本当ならこんな燃費の悪い魔道具をわざわざ使うことはないんだが……幸か不幸か、今のリンブルには使わずに余っている大量の魔石がある。
トイトブルクの魔物たちが元気な限りは、今後も安定して供給されるだろうし。
収まったなら要らなくなるだけで、今作らない理由がないんだよな。
魔石が足りなくなったら、俺たちの間でだぶついているのを買ったっていいと考えれば、バカスカ使っても足りるくらいの量はあるからな。
魔石を贅沢に使えるから、こんな燃費の悪い魔道具も有用に使えるというわけだ。
魔道具造りには一家言ある俺からすると少し微妙な気分だが、必要とあらば作らないわけにはいかないのだ。
ちなみに他の二つのタイプを選ばなかったのは、リンブルの事情を考えてのことだ。
自然に魔力をチャージしていくタイプの魔道具は、実際に何かを消費することなく使えるというメリットがあるが、そもそもチャージまでにかなりの時間がかかってしまう。
こいつが必要になってくるのは、補給がない状態で粘らなければいけない、長期の籠城戦のような場合だけだ。
一応現状が好転しちゃんと防衛ができるようになったら、徐々にこのタイプに置き換えていくつもりだったりする。
魔石使用型だと消費する魔石の量がエグいから、今後何年も使い続ければ防衛費がかさみすぎる。
デザントでも少し前に問題になったから、リンブルでも間違いなくそうなるはずだ。
魔力貯蔵型が、長期的に見ると一番コスパがいいんだよな。
そしてもう一つの魔力使用型を使わないのは、リンブルはシンプルに魔法使いの数が少ないからだ。
魔力使用型は魔力の消費量は少ないが、その属性に適性のある魔法使いしか使うことができない。
名前は同じだが、こっちの『魔力筒』はどちらかと言えば魔法発動の補助や負荷の軽減をするための発動媒体のような感じといった方がわかりやすいかもしれないな。
さて、みんながひぃこら言いながら作っていることだし、俺も作成に混ざるとしよう。
最近は戦ってばかりだから自分でも忘れそうになるが……どちらかといえば俺はこういう魔道具造りの方が得意なんだよ。
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