エンヴィーの独白 1
【side エンヴィー】
二等臣民である私、エンヴィーが軍隊に入ったのは避けようのない話だった。
戦うのは大好きだったし、戦いで死ねるのなら本望だった。
それに他に選択肢なんてものはなかったし。
もし女の子が独り立ちしてお金を稼ごうとするのなら、娼婦か戦闘技能系の職種に就かなくちゃいけないのが、王国っていう国だから。
でも今では、むしろそれでよかったと思っている。
だってそのおかげで――アルノード様と一緒にいることができているんだから。
王国の統治下に入った地域は、属州という呼び名で表される。
私の出身は、属州プロヴィンキア。
戦いとは神聖で侵しがたいものとされている、いくつもの戦闘民族たちの寄り合い所帯の上に国王がいるという地域だ。
神前決闘の概念が未だに根付いており、何かあれば夫婦で決闘をして物事を決めるような場所である。
なのでよく純粋な王国民からは、蛮族などと言われ蔑まれることも多かった。
私からすれば、向こうの方があり得ない。
戦うこともできないのなら、いったいあなたに何が守れるというの?
この世界では自分の身を守るのにすら、力が必要だっていうのに。
プロヴィンキアは傭兵や冒険者、属州兵を大量に輩出することで有名な地域である。
私の生まれも夫婦喧嘩で重傷を負うような家だった……基本的に怪我をして負けるのは父さんのことの方が多かったけど。
何かあれば戦いで決着をつけるような家庭で育ってきたので、何をするにも戦いで決着をつけようとする癖がある。
なので軍隊暮らしは、私にはよく馴染んだ。
配属されることになる属州兵だと、似たような考え方の人が多かったからね。
戦いの中で死ねるのなら本望、どうせ長生きはできないのだから、死すならせめて戦いの中で……。
そんな考えがいつだって、頭の片隅にあった。
属州兵は基本的に、最前線に送り込まれる。
それなのに給料は一般的な王国兵の半分程度しかない。
王国領と属州のケイザイカクサというやつがそうさせるらしい。
戦ってもなんとかできないものは嫌いだ。
全てが戦闘でなんとかできるようなら、もっと楽しい世の中になるのに。
私はしばらくの間、連邦との国境地帯での紛争に駆り出されていたが、突然の配置換えを食らうことになる。
理由は上司の命令不履行ということになっているけれど実際のところは違う。
私が他の兵たちより強くて、おまけに女だから、やっかまれて飛ばされたんだ。
新たな勤め先こそが、東部の辺境にあるバルクスだった。
そこは僻地とされていて、あまりいい噂を聞くことのない地域だ。
軍を辞めるかは結構悩んだんだけど……今となっては、あの頃勤続を選んだ私を褒めてあげたい気分。
だって私はそこで……アルノード様に出会うことができたんだから。
「俺が第三十五辺境大隊の隊長を務めることになったアルノードだ。よろしく頼む」
第一印象は、なんだか頼りなさそうな人って感じだったなぁ。
体つきはどちらかと言えば細身で、着ているのもローブでいかにも魔法使いな見た目をしてたし。
でもアルノード様へのそんな印象は、戦闘している姿を見れば一発で吹っ飛んじゃった!
その魔法の威力は森を焼き尽くすくらいに高くて、魔法で強化したその肉体で私でもギリギリ目で追えないくらいの超速戦闘ができて、おまけに誰よりも前に出て魔物たちと戦ってくれるんだ!
おまけにただ強いだけじゃないの!
アルノード様は回復魔法を使って大隊のみんなの怪我を治してくれる。
例えばエルルは火魔法を使いこなすマーダーグリズリーと戦っているうちに、その攻撃を避けきれずに食らってしまった。
アルノード様はそこに颯爽と現れてエルルを囲む魔物たちを倒して、そのまま回復魔法をかけて戦いに戻ったんだって。
かっこいいよねぇ!
本当ならお嫁にいけないような大きな火傷を顔に受けちゃったエルルの顔は、隊長のおかげで今もつるつるの卵肌。
エルルはあの一件以降、完全にアルノード様に惚れてしまっている。
誰がアルノード様についていくかは模擬戦で選んだんだけど、正直負けてもおかしくなかった。
実力は私の方が上だったはずなのに、恋する乙女のエルルの鬼気迫る様子は尋常じゃなかったからねぇ……。
隊長はただ回復魔法が使えるだけじゃなくて、魔道具職人でもあった。
魔物が侵入したらアラームを鳴らしてくれる『起きルンです』みたいな実用的な物から、魔力を込めれば砂糖みたいに甘い水が出る『甘露の水差し』まで。
私たちが過酷なバルクスでもなんとかやってこれたのは、アルノード様の多才さのおかげだった。
例えば今私が着ている『ドラゴンメイル』や腰に差している『龍牙絶刀』も、アルノード様が付与魔法で色々と効果を高めてくれている。
これを作ってくれたのは、鍛冶見習いだったダックと前に皮革職人の徒弟をしていたことのあるジィラック。
もちろん二人とも大隊のメンバーだ。
ただの見習いでしかなかった二人がドラゴン素材をまともに扱うことができたのも、何度失敗してもいいだけの素材を集めてくれて、おまけに素材をしっかりと扱えるようアルノード様が強化魔法で支援していたからだ。
大隊に装備が行き渡るようになってからは、重傷を負うこともめったなことではなくなった。
私たちはみんな、アルノード様のことが大好きだった。
これだけ方々に手を尽くされて、嫌いになるはずがない。
だから余所の隊でずっとサボってきたマリアベルのような隊員まで、みんな真面目に戦うようになった。
自慢じゃないけど、私たち第三十五大隊はそりゃもう相当に頑張った。
アルノード様にもらった厚意を受け取るだけではいけないと、誰もが自分にできる限界を超えて戦い続けたからね。
おかげで今の私たちは、配属前と比べれば雲泥の差がつくほどに強くなった。
もちろん装備の差もあるが、同じ装備の過去の私と戦っても一瞬で倒せるくらいにはなったと思う。
早くアルノード様のところへと、他の隊員たちにはせっつかれている。
私たち大隊のメンバーは、軍というよりアルノード様個人への恩義を強く感じているからね。
あまり口数は多くないけれど、マリアベルもきっと私と同じ。
じゃなきゃ無精な彼女が、わざわざ軍を抜けて冒険者になるはずがないものね。
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