キラキラ
アルノードとオウカが踊っている様子を、少し離れたところから見つめている集団がある。
『辺境サンゴ』の代表メンバーたちは、ドラゴン相手に勇壮な姿を見せていたとは思えないほどに気落ちしていた。
「アルノード様……」
エルルはオウカと何やら話し込みながら、にこやかに踊っているアルノードの背中を見つめている。
本当ならいの一番に誘いたかったのだが、焼いたクッキーを食べてもらったせいか、アルノードの顔を真っ直ぐ見つめることすらできなかったのだ。
「オウカ様と……」
「む……」
「ま、まぁそうなりますよねぇ……私、ちっちゃいですしぃ」
エンヴィーとマリアベルは、横から飛んでくる男たちの誘いを全て無碍にしながら、アルノードがターンをして周囲から拍手が起こる様子に眉間の皺を深くした。
自分たちと侯爵の仲がいいことを示すために必要なこと……と、頭では理解していても納得はできていない様子だ。
二人とも本当なら私が……という、恨めしげな顔をしている。
一部の叔父様方からは絶大な支持があったセリアは、そもそも誰かと目を合わせて話せないのでその全てから逃げ出し、エンヴィーたちの陰からそっとアルノードのことを見つめている。
できることなら逃げる予定だったので、彼女が着ているのはいつものローブ。
セリアは真っ黒な衣服に包まれた自分の身体を確認し、そのあまりの平坦さに絶望してから顔を上げる。
そしてオウカの胸部と自分のそれを比べ、胸を大きくする禁呪はないものかと今度アンデッドに相談しようという決意を固めていた。
「アハハ、隊長は相変わらず大人気ネ」
「ライライ、僕は酒は飲まないから――っておい、無理矢理口を開けるな! ……がぼぼっ!」
ライライは一緒に酒を飲める人がいないので近場に居たシュウをターゲットにし。
酒は判断を鈍らせるだけの毒物と言い放つシュウの口を強引に開き、ワインを流し込む。
そんな集団に迫る影が一つ――。
「やぁ、楽しんでもらえているかな」
「――どうも」
「ソルド殿下っ!? はい、楽しませてもらっています」
やってきたのは、第一王子のソルドだった。
彼はぐぬぬと完全に思考を停止させてしまったアルスノヴァ侯爵と分かれ、単身で『辺境サンゴ』の下へとやってきたのだ。
ソルドは緊張した面持ちのエルルに気にしないように告げてから、メンバーの視線を釘付けにしていたアルノードたちの方を見る。
彼は少しだけ考える素振りを見せてから、すぐにエルルたちの方へと向き直る。
その顔は、時折見せるいたずらっ子のような表情を浮かべている。
「我が国にはアルノードの力が必要だ。そのためには彼を結婚でリンブルに繋ぎ止めてしまうのが一番確実な手段だと考えている」
「……はい」
「理解してます」
不満げな顔を隠そうともしない彼女たちを見て、ソルドは笑う。
そしてアルノードは大変だな、と内心で思いながら、
「そのためにはアルスノヴァ侯爵の娘御と結婚させるのが手っ取り早いと考えていた。だがな、少し考え方を改めることにした。何もリンブルの貴族と結婚させなくてもよいのではないか……とな」
「それはいったい……」
「どういうことですかぁ?」
「なに、簡単な話だ。お前たち『辺境サンゴ』のメンバーと結婚して、この地に根を下ろしてくれてもまったく構わないということだ」
「「「―――っ!?」」」
一同は驚愕し、ソルドの顔をジッと見つめている。
彼はしてやったりという様子でみなのアルノードへの気持ちが、隊長へ向けるそれをはるかに超えていると確信した。
「貴族位なんぞなくとも、オリハルコン級冒険者というだけでリンブルにとっての重要度はそこらの法衣子爵なんぞよりはるかに高い。リンブルに定住してくれるというのなら、俺の方も色々と援助をするぞ」
「「「……」」」
エルルやマリアベルたちの目の色が変わるのを見て、ソルドは頷く。
無理に『辺境サンゴ』のメンバーからの不興を買うくらいなら、この形で落ち着けた方が無難だろう。
サクラと結婚させるのが一番なのだろうが……無理矢理結婚をさせたせいで彼女たちが離れてしまっては意味がない。
(どうやら『辺境サンゴ』のメンバーは、かなりの部分をアルノードに依存しているようだからな。強引な手は使わない方がいい)
ソルドはそれだけ言うと、ひらひらと手を振ってその場を去っていった。
あとには目をキラキラと輝かせた、エンヴィーたちが残っている。
「……次は私がっ!」
「いや、私が」
「いえいえここはセリアが」
そして彼女たちはアルノードが一曲踊り終えるやいなや、果敢に飛び出していくのだった――。
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