お互いに
「アルノードは、想像していたよりずっと上手いのですね」
「いえいえ、ステップをいくつか暗記して、無理くりつないでいるだけです」
俺が最初の相手に選んだのは、オウカである。
このパーティーにサクラは参加していない。
彼女は俺たちの戦いを一番間近で見て、聞いて、教わってきた、言わばリンブルの中でもっとも俺たちと似た考え方のできる人間だ。
なのでサクラには、街の防衛を行っているリンブル兵を取り纏める隊長として働いてもらっている。
「でも私でよかったのですか?」
「ああ、ここで最初に踊る相手はオウカしかいない」
俺がオウカを選んだのは、簡単に言えば政治的な理由だ。
しっかりと王党派にいますよというのを示すためのアピールである。
じゃなくちゃそもそも、下手くそなダンスを踊ったりなんかしない。
貴族の嗜みなんてものには、触れてこなかったからな。
ワンツー、クイッククイック。
以前に習ってあやふやになっている知識を頼りに、オウカの足を踏まないように動いていく。
身体が覚えているからか、不思議と動きが止まったりすることはなかった。
オウカがどうすればいいのかを、さりげなく示してくれているのも大きい。
「ぐぬぬ……」
「見てくださいアルノード、あっちでお父様がぐぬぬってしています」
「ハンカチをすごい勢いで噛んでるな……なんだか申しわけない気分になってきた」
ムーディーな音楽が流れる中、手と手を触れ合わせながら踊る時間が続く。
周囲ではお似合いだの、将来を約束した仲だのというなんの根拠もない話が尾ひれ背ひれをつけて拡がっている。
一緒に踊っただけでこんなに言われる。
だから貴族社会は嫌なんだ。
「すまないな、迷惑をかけて」
「いえいえ、それを言うなら私の方です」
どうしてだろうか。
俺とあることないこと吹聴されるんだから、向こうの方が嫌だろうに。
俺は男だし冒険者だからどうとでもなるが、オウカは結婚一つが重要な意味を持つ貴族社会の生まれなわけだし。
「ずっと謝れていなかったから、この場で謝罪しようと思います。アルノード、ごめんなさい。あなたは気ままな冒険者暮らしをしていたかったはずなのに、うちの事情に巻き込んでしまった」
「それは……いや、自分から首を突っ込んだだけですし」
「それでも、ですよ」
どうやらオウカは、俺たちが結構忙しく動き回っている今の現状に申し訳なさを覚えているみたいだ。
そんなこと気にしなくていいのにな、バルクスの頃より正直全然マシなのに。
そういえばここ最近は、サクラもかなり根を詰めているよな。
さっさと色々と終えたら、何か気分転換でもさせるべきかもしれない。
この国の上にいる人間は、少し真面目が過ぎる。
もっと平民と同じように、ゆるっとした毎日を過ごしてもいいのに。
……いや、今の情勢がそうさせないんだよな。
このパーティーが終わったらもうひと頑張りするとしよう。
リンブルの気力の使い手たちに道具を回しきることができれば、俺らもこの国も楽になるし。
「またすぐ、気ままな暮らしに戻してみせるよ。そしたらゆっくりしよう、お互いに」
「――はいっ!」
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