ウィンク
「お、ここは普通だな」
「はふはふ……人が多くて窒息する」
ぐでっとしているセリアを支えながら歩いていくと、そこにはにこやかに話をしているエンヴィーの姿があった。
彼女と一緒にいることが多いマリアベルも、無愛想ながら最低限の会話をしている。
エンヴィーなんかは戦いだそうとか言い出すんじゃないかと少し不安だったが、問題なさそうで何よりだ。
「あ、隊長!」
「おう、今日は水色のドレスだな。似合ってるぞ」
「えへへ、もっと褒めて~」
エンヴィーは俺を見つけると、参加者たちを掻き分けてこちらにやってきた。
どうやら彼女も、仕官先探しをしているわけではないようだ。
彼女なんか、どこの貴族も欲しがるような人材だと思うけどな。
「エンヴィーはどこか気に入ったところはあったか?」
「ん? ……別にどこもないですかね、休みの日に稽古をつけてほしいと言われたので、それはオッケー出しましたけど」
「へぇ、お前がそんなことするのって珍しくないか?」
「だってこの国の人たちが強くなれば、その分私たちの自由な時間が増えるじゃないですか。そしたら隊長たちと一緒にどこかでゆっくりしたいんです」
「……なるほどな」
マリアベルの方に聞いてみても、エンヴィーと似たようなものだった。
今後のことを考えて訓練や模擬戦に付き合うことはあっても、そこから仕官だとかいった話にはならないらしい。
どうやら二人とも『辺境サンゴ』を離れるつもりはないようだ。
二人とも話は終わったとばかりに俺たちについてくるというので、今度は四人でシュウのところへ。
いつの間にか途中で合流していたエルルを引き連れ歩いていくと、シュウの周りには貴族の令嬢らしき人たちが集まっている。
お、あいつにしては珍しくちゃんと人付き合いをしてるじゃないか。
嬉しくなりながら聞き耳を立ててみると、やっぱりシュウはシュウだった。
シュウは令嬢が魔道具についての質問をすると、問いの何十倍もの膨大な知識を開陳して一人でハァハァ言っている。
別に機密扱いはしてないが……素材とか触媒とか理論とか、結構ガンガン話してるな。
箝口令を敷いている『通信』の魔道具についてだけは言っていないから、あとのことはよしとしよう。
今ではないが、いずれ俺も話してはいただろうし、それが少し早くなっただけだ。
しかし今のシュウは……完全にヤバい奴だよな。
若干マッドな気配のあるシュウに、令嬢たちはみんな引いていた。
でもシュウはそんなことは気にせず、自分の頭の中にある想像を言葉に直すことで整理し続けていた。
どうやら令嬢たちは、シュウから情報を聞き出そうとしていたのではなく、本当に彼とお近づきになりたかっただけのようだ。
まぁたしかにシュウも浅黒くてエスニックで、リンブルの人たちからすると魅力的に映るだろうからな……。
だがシュウのマシンガントークに面くらい、笑顔を引きつらせながら去ってしまっていた。
周囲に誰も居なくなっても、シュウは一人でブツブツ言っている。
もう頭の整理がメインになっているので、周囲の人のことなどどうでもよくなっているのだろう。
「シュウっぽいよね」
「鈍感系鋭敏研究者」
「それなら隊長もじゃない?」
「ああすれば一人になれるのかぁ……」
四者四様の反応を示しながらも、苦笑するだけで引いたりはしない。
シュウが変な奴だって、みんな知ってるからな。
というか『辺境サンゴ』にいるやつらは、ほぼ全員変な奴らだし。
さっきのエルルもそうだし、ライライは多分余所だとすぐにクビになるだろうし、セリアも真面目に勤めるのは無理。
シュウもコミュニケーションが壊滅的だし、エンヴィーはすぐに揉め事を起こすだろうし、マリアベルは手を抜きまくって苦い顔をされるだろう。
新たにシュウも引き連れて他のメンバーのところを回るが、どこもかしこもおおむね似たような状態だった。
まともに話をしているように見えて実は甘い物を食べることしか頭にない奴がいたり。
頭に黒い箱を被って参加しているせいで、オブジェか何かと勘違いされている奴がいたり。 ドレス姿のまま模擬戦をして、ドレスを破いたりしている奴がいたりと。
パーティーに出た結果は、『辺境サンゴ』のみんなが社会不適合者集団だということを再確認しただけだった。
とりあえずもうしばらくは、この面子でやっていこう、うん。
……変わらないとわかって、少し安心している俺がいる。
やっぱり俺も、彼女たちと一緒に過ごすことに居心地の良さを感じてるんだろうな。
みなで周囲の目を気にせずわいわいやっていると、管弦楽団が曲を弾き始める。
どうやらダンスの時間が始まったようだ。
さて、俺はダンスを誰と踊ればいいか。
一応最初に踊る相手は決めてるんだけど……手すきだろうか。
少しズルいが、魔力探知を使い場所を探し当てる。
彼女は数人に勧誘されているようだったが、誰の手も取ってはいなかった。
俺はスッと近付いていき、彼女がこちらに気付いてからパチリとウィンクをした。
「――よければ一曲、どうかな?」
「はい……喜んで」
俺が選んだのは――。
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