保護者
まず歩いていくと目に入ってきたのは、ゾンビのような呻き声を上げる男たちが倒れている一角だった。
その中心には、陽気な声で笑っているメンバーの姿がある。
「あ、隊長~! ここのワインはちょっと酸っぱいネ、私ワインは甘い方が好きヨ!」
「ライライ、あんまり飲み過ぎるなよ」
「まだまだ全然平気ヨ~」
エルルたちには周囲に声をかけようとする人たちの列ができている中、ライライの周囲にだけは人がいない。
いや、正確にはいたのだが……みんなベロベロになって倒れてしまったのである。
ライライも周囲の人間から結構声をかけられていたメンバーの一人だ。
何せ実質彼女一人で、シルバリィドラゴンをボコボコにしていた。
強力な武官が欲しい貴族からは引く手数多だろう。
けれど彼女に声をかける人間は、すぐに居なくなった。
「飲み比べに勝ったら話を聞く」というライライの言葉に奮起した者たちが彼女へ挑み、そのことごとくが玉砕して酔い潰れたからである。
ライライはかなりのザルで、ワインの一樽や二樽なら平気で空けてしまう。
彼女は酔ってから潰れるまでが長いのだ。
眠気が襲ってくるまでは、いくらでも酒を飲み続けることができる。
「隊長も飲み比べするネ!」
「俺はワインは軽く舐めるくらいで十分なんだ。苦いワインより、普通にブドウジュースの方が美味しいし」
「隊長は子供だネ~ヨシヨシ」
上機嫌なライライに頭を撫でられる。
こいつ、相当酔っ払ってるな。
ぶっ倒れる寸前に飲み比べを受けたりすることがないように、一応注意しておかなくちゃ。
俺にはこいつの酔っ払い度合が、気力の上がり具合でわかるからな。
ライライには酒量に比例して気力の上がる特異体質があるわけだが、上がった気力がある一定の値を超えると、彼女は寝てしまう。
これ以上気力を上げれば身体が保たないという、身体側からのサインなんだろうな、多分。
「是非我がモルスク領に一度遊びに――」
「あ、あの……」
「もしよければこのあとダンスを――」
「あのあの、えっと……あうあう」
また少し歩くと、今度は我らがちびっこ死霊術士が端っこの方に追い詰められていた。
あうあうとまともな返答もできずに、口をパクパクさせている。
やっぱりひきこもりがちなセリアに、いきなりパーティーはハードルが高かったか……。
まともに受け答えができてはいないが、周囲の人間はそんなことは気にせず押せ押せドンドンとセリアに話しかけ続けていた。
彼女も、『辺境サンゴ』の中では特に注目の高いメンバーの一人だ。
彼女がアンデッドを動かしてるのは、ある程度魔法に心得のある者なら見ればわかる。
スケルトンたちを作ったのは俺だが、それを動かしてたのはセリアだからな。
セリアを引き入れればそれだけで軍団規模の力が手に入るとあって、貴族や騎士たちの目も割と血眼になっている。
今まで防衛で必死になっていたのが効いているのか、死霊術士に対する隔意のようなものはなさそうだ。
偏見なんかがないのは助かるが……ちょっと強引過ぎるな。
端っこに追いやられて、逃げるに逃げられなくなってるじゃないか。
「ちょっとすみませんね」
「た、隊長ぉ」
俺が割って入ると、強引な勧誘はすぐに止み、散り散りに去っていった。
どうやらソルド殿下と仲睦まじげに話していた俺の気分を害するのは、得策ではないと判断したらしい。
いや、それなら俺の部下のセリアとの接し方も気をつけろよ……と思うが、強引に勧誘しようとするような奴らは、そういうところまで考えが至らないってことだろう。
「いやぁ、助かりましたよぉ。人にいっぱい話しかけられて死んじゃうかと思いましたぁ」
「人間そんな簡単には死なないぞ」
「いっそのこと死んでアンデッドになろうかなぁ。そしたらご飯も要らないから、引きこもってても何にも言われないし……」
「筋金入りだな……」
「怖かったですぅ!」
「どうどう、よしよし」
さっきライライにされたよりもずっと優しくセリアの頭を撫でてやる。
俺と離れたらまたさっきの勧誘地獄が始まると思っているのか、セリアは俺から離れようとしなかった。
仕方がないので彼女を引き連れて、まだまだいる問題児たちのところへ向かうことにした。
俺、お前らの保護者じゃないんだけどな……。
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