料理
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「隊長……?」
エルルの様子がどこかおかしい。
この会場にやってくるまでは、軽いステップなんか踏んでずいぶんと楽しそうだったというのに。
今の彼女はあらゆる悦楽が抜け落ちてしまった人形のようになっている。
「ど、どうしたんだエルル。そんなに嫌なことでも――」
「隊長は、結婚するんですか?」
「……殿下との話を聞いてたのか」
エルルとはそこそこ距離が離れていたように思ったが……気力による部分強化で、聴覚を強化したのだろう。
魔法による身体の強化は、用途によって効果が変わる。
そのため防御力を上げる防御強化、速度を上げる速度強化、満遍なく攻撃力と防御力を強化する身体強化のように、用途ごとに別の魔法を使うことが多い。
対し気力の使い方は一つ。
体内にある気力――つまりは陽の身体エネルギーを引き出し、それを練り上げる。
基本気力は体内を循環させた方がロスが減るため、身体中を巡らせるのが最も効率がいいやり方である。
気力は血流と共に流れようとする性質があるため、循環を止めることは難しい。
だが練達の気力使いになってくると、気力を一部に留めることで魔法のように用途別に身体を強化することができるようになる。
気力を耳に集めれば、聴覚強化の魔法のように聴力だけを強めることもできるのだ。
エルルもとうとう部分強化ができるようになっていたか、なんだか感慨深いな。
……って、そんなことを考えている場合じゃないな。
そろそろ現実逃避は止めにして、目の前のエルルと向き合わなければ。
「今はするつもりはないかな」
「今はってことは、いつかするんですか!?」
「なんだ、いやに突っかかってくるな」
そりゃあ俺もそろそろいい年だし。
孤児だから正確な年齢はわからないが、俺個人は二十代半ばくらいだと思ってる。
デザントだと既に結婚適齢期を過ぎているくらいの歳ではあるからな。
「ただ、貴族と結婚することはないだろうな。俺はもうこりごりだよ、ああいうの」
「――そういえば隊長は爵位も断ってましたもんね、ホッ……」
たまに茶会に行くだけでも相当にしんどかったし。
すごく長ったらしい建前で本音を隠したり、何かあったらすぐに作り笑いしなくちゃいけなくなったり……魔物相手に戦っている方がよっぽど楽だ、いや冗談抜きに。
「でも隊長は結婚願望あるんですね、意外です」
「俺自身幸せな家庭への憧れ、みたいなもんがあるからな」
俺が素敵な父親になれるとは思っていないけど、家庭ってものに関する漠然とした憧れみたいなのがあるんだよな。
実際経験してみたら、全然なのかもしれないけど……やっぱり興味はあるよ。
「そういえば聞いたことなかった気がしますけど、隊長はどういう女の子がタイプなんですか?」
「え、俺?」
気付けばいつものような感じに戻っていたエルルに言われて、ふと思う。
好きな女の子のタイプか……今まで、考えたこともなかったな。
魔法一筋だったせいで浮いた話の一つもなかったし、割り切れなくなりそうだから娼館へ行ったこともない。
そういえば俺、今まで彼女の一人も作ったことないんだよな……。
小さい頃にふと『彼女って俺のこと好きなんじゃね?』と勘違いして告白して、玉砕した経験はある。
ちょっとそれが、トラウマになって、あれ以降女の子と仲良くなろうとするの止めたんだよな。
あの時は、レリアに慰めてもらったっけ……。
昔の記憶を懐かしみながら、自分の好みを深掘りしていく。
俺はどういう女の子と話してる時にドキドキしてたっけか……。
「かわいくて、家庭的な子かな。あと何かを頑張ってる人は素敵だと思う」
「あっ、隊長、そういえば私クッキー焼いてきたんです! 食べてみてください!」
何故か顔を真っ赤にしていたエルルからクッキーの入った袋を受け取る。
中から一つつまんでみて、ぽりぽりとかじる。
あんまり砂糖を使っていない、優しい甘さがいいな。
果物の砂糖漬けみたいな冒涜的な甘さは苦手だから、これくらいが一番好きなんだよな。
うん、美味い。
やっぱりエルルって料理上手だよな。
彼女と結婚する旦那さんは幸せ者だと思う。
「わ、私、これからも隊長のお側で、頑張りますからーーっ!」
料理上手なことを褒めてやると、エルルはふるふると震えてそのまま走って遠くへ行ってしまった。
……機嫌が治ってよかった。
エルルって一度キレると、本当に怖いからさ……。
パーティー会場を見渡すと、ちらほらとみんなを囲むような輪ができている。
ちゃんとやれているか不安だったので、俺はとりあえず見て回っていくことにした。
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