結婚
「ど、どうしていきなりそんな話になるんですか!?」
頭の中を真面目モードに切り替えていたからこそ、不意をつかれた。
いや、結婚が真面目じゃないというわけでもないんだけどさ。
まさかいきなりそんな話されるとは思わないじゃない、普通。
「いきなりなものか、普通貴族同士が仲良くなるためには婚姻が一番手っ取り早い。アルノードだってデザントに居た頃に何度かそういう話はあっただろ?」
「それは、まぁ……」
腐っても『七師』だったので、縁談の話自体は何個かあった。
俺にそういう話が舞い込むようになったのは『七師』になってから――つまりはバルクスに赴任してからのことがほとんどだった。
けどそういうところで話に出てくる貴族令嬢っていうのは、だれもかれもお嬢様過ぎてな……。
片田舎のバルクスで魔物退治をする俺に寄り添うことに難色を示す子たちがほとんどだった。
結婚自体をするのは構わないから、王都に来てくれないか。
縁談が進みかけていた女性たちほとんど全員が、こんな具合だった。
向こうの立場で考えれば、強くて辺境に居る田舎っぺ大将に嫁ぐのは嫌ってことだったんだろうな。
「俺に結婚は無理ですよ、他人の人生に責任とか持てませんし」
「持つ必要もないだろ。数年に一度しか子と会わない親なんか、貴族社会にはザラだぞ」
たしかにそうなのかもしれないが、俺はそんな無責任なことはしたくない。
ほら、俺自身が孤児だからさ……子供を作ったら、ちゃんとめちゃくちゃに可愛がってやりたいんだよ。
普通に幸せな家庭を築きたいだけだから、政治上の結婚っていうのはどうもな……。
ん、というかさ……。
「サクラはまだわかりますが、オウカ……様がどうして話に上がるんですか?」
オウカは次期嫡子の歴とした貴族なので、人前ではあくまでも目上として扱わなければいけない。
ギリギリ言うのが間に合った俺に対し、ソルド殿下はなんでもないような顔をする。
「まぁ嫡子とは言えど、いずれ誰かと結婚はしなくちゃいけないだろ。アルノードが婿養子になればいい」
「そんなことになったら、侯爵家で立場を持っちゃうじゃないですか。肩が重くなるのはちょっと――」
「いや、余所に嫁に行っちゃいけないってわけじゃない。別に嫁にもらっても問題はないぞ? 優秀な子がいないなら話は変わるが、弟御のティンバーも頭脳明晰と聞く。アルノードがしたいというのなら、継承権の手続きをちょちょいとすれば問題もない」
次期嫡子を嫁に出してまで結婚って……ソルド殿下はそこまでして、俺たちにここに根を下ろして欲しいんだな。
まぁ心情的なことを考えれば理解できないではないが……俺はこういうのは個人の気持ちの問題だと思っているからな。
アルスノヴァ侯爵にちゃんと味方するってことを何かしらの形で示さない限り、ずっと言われそうだな……。
だから貴族社会っていうのは面倒なんだ。
いっそのこと今からでもガードナーに引っ込んで、スローライフでも始めようかな。
「まあ今すぐにという話でもない、結婚については頭の隅にでも置いておいてくれ」
バシバシと背中を叩き、ソルド殿下が去って行く。
豪快というかなんというか……今まであまり関わってこなかったタイプの人間だ。
ああいうのを、陽キャと言うんだろうか。
――殺気っ!?
背後から感じた強い気配に、思わずその場から飛び退く。
幸い周囲の目は余所へ向いていたので、悲鳴が上がるようなことはなかった。
飛びながらくるりと背面の方を向き、殺気の正体を確認する。
そこに居たのは……顔から一切の表情が抜け落ちた、ドレス姿のエルルだった。
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