選択肢
俺がパーティー会場へとやって来たのは、何も自分たちの力を誇示するためだけじゃない。 むしろそれはサブの目的の方で、メインは別にある。
それは――『辺境サンゴ』のみんなに選択肢を与えることだ。
パーティーに入ると、今日は無礼講だとのソルド殿下の申しつけによりラフな感じの食事会が始まった。
俺らが無礼を働かないようにという配慮はありがたい。
「エンヴィー殿、もしよければこちらで話を――」
「失礼でなければお名前を……ああ、貴殿があのマリアベル殿ですか!」
「エルル様、もしよければこのあとお茶でも……」
とりあえず団子になって、端っこの方でお茶を濁そうとしていたのだが……やって来る、美男美女による誘惑の数々。
どうやら俺はソルド殿下の紐付きに見えているようなので、声をかけられる数は比較的少なかった。
まぁ今後ともごひいきにというような控えめなものばかりだ。
どちらかというと本気で話しかけられているのは、『辺境サンゴ』の中でも今回目立った活躍をしたメンバーたちの方だ。
エンヴィー、マリアベル、エルルにライライ、シュウとセリア。
やっぱり明らかに声かけの数が多いのは、彼女たちだった。
何せ彼女たちは『辺境サンゴ』に所属しているだけの冒険者である。
まだどこにも引き立てられてはいないし、同じ王党派の中で融通するのなら、クランメンバーの一人や二人ならばソルド殿下もアルスノヴァ侯爵がとやかく言うことはない。
冒険者は基本的には明日どうなるかもわからない不安定な職業であり、騎士に取り立てることができるのならば抜けたいものもいるだろう。
ドラゴンを相手取れるだけの力を持った存在が我が領に来てくれるのなら、これほど嬉しいことはない。
おおよその貴族たちの考えはそんなところだと思う。
俺はクランリーダーだが、彼女たちの行動を縛るつもりはない。
どのような結果になっても受け入れるつもりだ。
……何年も一緒にやってきた奴らだから、居なくなられるとちょっと……いや結構寂しいけどさ。
あいつらが幸せになる道を選ぶのが、一番いいに決まってる。
周囲から声かけもなく、ちびちびとワインを飲んでいると、ソルド殿下が近付いてきた。
「楽しんでくれているかな、ドラゴン狩りの英雄殿」
「そんな大層なもんじゃありませんよ」
「ふむ……何かあったか? 至らぬところがあったのなら謝るが」
内心が表に出てしまっていたのか、ソルド殿下に何かを感づかれてしまったようだ。
何かを隠したり嘘をつくのが苦手な俺には、やっぱり貴族社会は向いてない。
「いえ、何もないですよ。少し今後のことを考えていまして」
「なるほど、今後のことか……一つ聞いてもいいだろうか」
「一つとは言わずに、どうぞ」
なんでも答えますよ、俺に答えられることなら。
実務的な話だろうか、それとも武力的な話だろうか、はたまた政治的な話だろうか。
何が来ようと答えられるように身構えていると――やってきたのは、予想外のところから飛んできたフックだった。
「嫁にもらうなら、オウカとサクラどちらがいい?」
「ぶーーーーっ!!」
俺は口に含んだワインを、思いっきり噴き出した。
「面白い!」
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