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オケアノスの聖女


 海洋国家オケアノスは、ここ百年ほどユグド大陸へ兵を下ろしたことはなかった。

 それはオケアノス中興の祖と呼ばれるヘグディア二世の遺言に端を発している。


「我らが選ぶのは泥沼の戦争ではなく、栄光ある孤立である」


 彼の下、オケアノスは今までの外交戦略を一変させた。


 彼らは侵略し、橋頭堡を築き、自国から離れた領土を得ようとすることをやめた。

 そしてとにかく陸軍を削減し、海軍を増強した。

 結果としてオケアノスは大星洋の海上交易を独占し、海の支配者となった。


 大国デザントですら、海上においてはオケアノスの機嫌を伺わなくてはならない。

 彼らは国としての規模は比較的小規模でありながら、その特異性と外交戦略によって栄えることに成功したのである――。



 オケアノスは、元は海を渡り逃れてきた異教徒たちによって建設された宗教国家である。

 そのためこの国は『星神教』と呼ばれる一神教を国教と定めており、オケアノスの民はほぼ全てこの宗教を信仰している。

 国家元首である国王は『星神教』の代弁者であり、同時に守護者でもあり、神から統治の正統性を授けられた神授王権を持つ聖者でもあった。


 オケアノスの王家であるシュトゥツァレルン王朝の血統を持つ人間は、すべて聖者として列される。

 その中に、時折とある魔法適性の高い女子が生まれることがある。

 王家に連なる者しか使えぬ、オケアノスそのものを意味する魔法の使い手であるその人物は、こう呼ばれる。


 ――『オケアノスの聖女』と。







「海風が心地いいですね……」


 一人の少女が、磯から吹く風に髪を揺らしながら、大星洋を眺めている。

 金の髪がたなびき、ロングスカートがふわりと浮かぶ。


 海に近いからか、海岸線には時折強い風が吹く。

 彼女はその打ち付けるような強風が嫌いではないようで、柔和な笑みを浮かべている。


「ひ、姫様っ! 危のうございます!」


 その少女を追いかけるようにやってきたのは、一人の女騎士だ。

 赤銅色の髪をポニーテールにして結んでおり、オケアノスからしか産出しないマジックレアメタルであるオーシャンミスリル製の甲冑に身を包んでいる。

 戦闘中ではないからか、兜は小脇に抱えられていた。


「平気ですよ。昔はよく海辺で遊んでましたから」

「ひ、姫様っ!? それは――」

「……わかっています、エスメラルダ。大丈夫です、今周囲には誰も居ません」


 金切り声を上げる女騎士エスメラルダに笑いかけてから、姫と呼ばれた少女――『オケアノスの聖女』、アウレリア・ツゥ・バーベルスベルクは再度海を見つめる。

 その顔はどこか寂しそうで、儚げだった。


 アウレリアには、出生に関わるとある秘密がある。

 オケアノスでも五人も知らぬその秘め事は、彼女が『オケアノスの聖女』である限り、他の誰かに打ち明けてはならない。


 彼女が本当は――公爵家の病弱な娘アウレリアではなく、ただのレリアだということは。


「アウレリア様……」

「二人きりの時くらい、レリアと呼んでください。私も本当の名前で呼ばれた方が嬉しいですし」

「で、ですからっ――」


 目を白黒させているエスメラルダを落ち着かせながら、アウレリアは一人空を見上げる。


 彼女が時折思い出すのは、自分の義理の兄のことだ。

 まったく血はつながっておらず、ただ同じ施設で育っただけ。

 ただ自分にとっての家族は、今も昔も彼一人だけだった。


 魔法の才能があるからと、とある魔法使いの丁稚として働きに出てしまい、それっきり連絡は取れていない。

 また会うことはできるのだろうか。

 いや……会ってどうするというのだろうか。

 今ではもう、何もかもが変わってしまったというのに。


「アル兄ちゃん……」

「……何かおっしゃられましたか?」

「いえ、なんでもありません。少し寒くなってきました、離宮に戻りましょう」

「お供致します」


 アウレリアは離宮へと戻り、茶会の準備を整えることにした。

 オケアノスは海洋国家であり、大陸の情報が届きにくい。

 更に離宮暮らしで、そもそも俗世情報に疎い彼女は知らない。


 自分と兄との再会が――そう遠くはないということに。



この作品を読んで


「面白い!」

「続きが気になる!」

「レリアとアルノード、早く再会してくれ!」



と少しでも思ってくれたら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


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よろしくお願いします!


ちなみにレリアって誰だっけと思った方は、第一話を読み返してみてください!

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