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オーガとダメなやつら


 あ、そうだ。

 そういえばここに来る道中、結構な量の山賊を倒してきたんだった。

 盗賊依頼はどの街でも出ている物なので、いくつかは貢献数に加算されるかもしれない。


「デザントからこちらに来るまでの間に山賊の根城をいくつか潰したんですが、依頼って出てますか?」

「もちろんです。商隊は常に盗賊被害に悩まされていますからね。いくつかありますが……首は持ってきていますか?」

「はい、頭目の物だけでも三つほど。構成員まで含めると結構な量があります。解体所で確認してもらえますか?」

「ええ、もちろんです」


 別の担当に代わるのかと思ったが、彼は受付を一旦閉じるとそのまま併設されている解体所にまでついてきてくれた。

 どうやら直接確認してくれるらしい。

 一人一人に親切にしてくれるなんて、教育が行き届いているな。

 お役所仕事だった王都のギルドより好感触だ。

 人がそれほど多くないのも大きいのかもしれないけど。

 道中話をしたおかげで、職員さんとも仲良くなれた。

 彼の名前は、アリスタさんと言うらしい。




「す、すごい! ベックの赫猫盗賊団にはかなりの数の商隊が悩まされてきていました! それにギルバートの山城殲滅隊に――コナーズの紅蓮隊まで!?」


 とりあえず頭目の首を出していくと、アリスタさんはかなり驚いていた。

 どうやら三人とも、そこそこ名前の売れた盗賊頭だったらしい。


 たしかに盗賊にしてはかなり統制が取れていた気がする。

 正直どいつだったかは覚えてはいないけど、中には魔法を使ってくる奴もいたし。


 あ、ちなみに彼らの首は普通のリュックの中にしまってある。

 『収納袋』を持っていると良くも悪くも目を付けられる。

 貴族なんかに売ってくれと言われたら、なかなか断るのは難しかったりするし。

 しばらくは普通のリュックや鞄をメインにして、『収納袋』は人目に付かない場所でだけ使用するつもりだ。


「襲われた商隊の商会長や娘を攫われた織物商の支店長など、何人かが討伐依頼を出しています。かなりの依頼が重なっているはずなので、報酬には期待していてください!」


 依頼には常駐のものや期限付きのものまで、色んな種類がある。

 どうやらこいつらの率いていた盗賊たちは相当あくどいことまでやっていたらしく、何人もの有力者たちが討伐依頼を出していたらしい。

 いくつもの依頼が重なる場合、当たり前だが彼らが出した依頼の達成料は全てもらえる。

 更に盗賊を倒しただけで一気にいくつも依頼を達成した扱いになるので、二重の意味でホクホクだ。

 ギルド側も有力者相手に面目が立つし、双方にとっていいこと尽くめである。


 他の構成員たちの首はまとめて袋の中に入れているので、後で馬車から持ってくることになった。

 盗賊討伐の報酬は金貨五枚は下らないそうなので、しばらくは生活には困らなそうである。

 ちなみにこのリンブルでは鉄貨・銅貨・銀貨・金貨・白金貨の順に価値のある貨幣で、基本的にはそれぞれ十枚で一つ上の貨幣と同価値とされている。

 デザントと同じだが、あっちの方が国力や国としての信頼性が高い。

 含有量なんかはそれほど変わらないが、大体リンブルの金貨十一枚とデザントの金貨十枚が同じくらいの価値だ。

 そこらへんは国際的な信用度の差だろう。


 さっき宿屋なんかも見て回ったが、馬車を入れられるような規模の店だと一泊で銀貨二枚は取られる。

 それが三人分と馬の飼料代、チップも合わせれば銀貨七枚。

 食事は切り詰めるつもりはないので、一食銅貨五枚くらいとすると一日三食三人分で銀貨四枚と銅貨五枚。

 雑費を入れれば一日の必要経費は金貨一枚ちょっとって感じか。

 冒険者としての暮らしだけで多少なりとも黒字にしたいから、一日金貨一枚と銀貨五枚くらいの稼ぎは欲しいところだな。


 装備は俺が全部賄えるからなんとかなるだろう。

 大隊のみんなを食わせるとしたら大きめの家を借りて、600人を食わせなくちゃいけないわけで……クランへの道のりはまだまだ長そうである。


 とりあえず土地勘がないので、日帰りで受けられる適当な討伐依頼でもこなすか。

 索敵の魔道具『サーチ&デストロイ君三号』があるので、魔物捜しには困らない。

 ある程度稼げる魔物を狩りたいところだな。


「アルノード様、サラマンダーの番いですって! これ受けちゃいましょうよ!」

「グレーターデーモン出没情報……そそる」

「はいはい、わかったわかった」


 俺はミスリル級の依頼しか見ようとしない二人の首根っこを掴みながら、今の自分たちに合っている物を探すことにした。

 慣れない場所で強敵と戦うのは勘弁だ。

 そういうのは、もっと冒険者という職に慣れてから、しっかりと準備を整え万難を排した上で挑むべきである。

 生きるか死ぬかの戦いは、もうこりごりだ。




常駐依頼 オーガ討伐


推奨討伐ランク 銀

討伐証明部位 オーガの心筋

討伐報酬銀貨 一枚



 今の俺たちなら……うん、このあたりが無難だろう。

 オーガのオツムは相当悪いので、ゴブリンほどではないが結構すぐに個体数は増える。

 魔道具があるので探すのにも難儀しないし、生息地域に行けばあぶれるという可能性も低い。


 オーガは真っ赤な筋骨隆々の身体を持つ魔物である。

 魔法を使ってくることはなく、持っているのも木を削って作ったでっかい棍棒だけだ。

 厄介なのは高いタフネスと、白兵戦の能力。

 単純にパワーでごり押ししてくるので、真っ向から戦えばいっぱしの騎士くらいの実力はある。


 基本的には魔法や矢で遠距離メインで戦うか、毒や麻痺で弱らせて倒すタイプの魔物だ。

 なので冒険者たちからはあまり人気がない。

 事前準備や道具が必要な魔物の依頼って残りがちなんだよな。

 ほら、冒険者ってかなり人間的に問題のある奴らの集まりだから……。

 そういう細かい作業をまともにやりたがらない奴が多いんだよ。


 そんだけ強くて数も増えやすくて狩られないならもっと社会問題とかになりそうなものだが、オーガはすぐに同種で争って数を減らす。

 人間顔負けに縄張り争いとかをするので、爆発的な個体数増加は起こらないのだ。



 さて、人気のないオーガ討伐だが、俺たちからすると少し事情が異なる。

 まず武闘派な二人と遠距離から一方的に倒せる俺なら、オーガに苦戦することはない。

 これより上の金級のレッドオーガでもエンヴィーたちは倒してたし、俺なんかその更に上のアダマンタイト級のオーガエンペラーや、ミスリル級のテンペストオーガとサシで戦ってきたからな……。

 なのでこれは安全にこなせる依頼の範疇だ。

 それに生息地帯は街からそれほど遠くないので、馬車を使えば日帰りも余裕だ。


 更に魔道具職人としても働ける俺がいるので、オーガ討伐の価値は銀貨一枚だけじゃない。 魔石や角なんかは素材として別途買い取りもできるし、軽く加工して魔道具作りの触媒や錬金術の材料として売れば、銀貨五枚分くらいにはなってくれる。

 細かい手作業は道中にでもちょちょいとやればいいので、オーガ討伐なら一日三匹狩れば生活に貯蓄もできる計算だな。


「えー、オーガですかー?」

「死ぬほど戦ってきた……もうしばらく見たくない」


 二人はめちゃくちゃ不満そうだった。

 まぁバルクスで起きた魔物の軍勢(スタンピード)で死ぬほどオーガとは戦ったからな……彼女たちからすれば、毎日パンばかり食べているような感覚なのかもしれない。

 だがそこは我慢してもらおう。

 したいことだけしていては、生きていきにくい。

 世の中というのは案外、世知辛くてつまらないものなのである。


 オーガ討伐をすることにした理由は、もう一つある。

 彼女たちには言っていないが、今の俺の当面の目標は、俺という存在なしで彼女たちが生活していけるような環境を作ること。

 なので俺がいなくても利益が出せるような暮らし方を、彼女たちには仕込んでおきたい。


 大隊の面子の中には俺が魔道具作りの手ほどきをした奴もいる。

 彼女たちが来てくれれば、俺がいなくてもオーガ討伐だけで暮らして、貯蓄もできるようになる。

 もし上手く回れば、俺がいなくなってもなんとかなるはずだ。


 俺もいつまでも大隊のみんなのことを守ってやれるわけじゃないし、例えば不測の事態でデザントに戻されるようなこともあるかもしれない。

 そうなってもなんとかやっていけるよう、彼女たちに利口な生き方を叩き込むつもりだ。


 軍隊暮らしをしていると、世間一般的な常識からはどうしてもズレてしまう。

 大隊のメンバーも、今更普通の店員として働いたりするのは難しいだろうからな。

 せめて冒険者として堅実に暮らしていけるくらいにはなっておいてもらいたい。


 今は強敵との戦いを楽しみたいかもしれないが、そんなのは若いうちだけだろう。

 所帯を持ったり子供を産んだりすれば、安定を求めるようにもなるはずだ。

 元上司で現パーティーリーダーなんだ。

 エンヴィーたちの今後のことくらいは、考えてやらんとな。

 だからつまんなくても我慢してくれ。


「テンペストオーガいないかなぁ。アルノード様が戦ったあれ、めちゃくちゃ強かったんでしょ?」

「私たち二人でなら……なんとかいける?」


 安定を求めるように、なるかなぁ(遠い目)。

 彼女たちの変わらぬバトルジャンキーっぷりに俺は頭を抱えた。

 ダメだこいつら、早くなんとかしないと……。

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